• 釣れたね、良かったね

    いー君が行きたかった場所。 魚を釣り上げた時のうれしそうな笑顔。 釣竿を持って歩いて帰る帰り道……『パパ、また行こうね』の言葉。 あの日の約束は果たされぬまま。 でも、昨日いー君を連れて、釣り公園に行ってきたんだ。 たくさん釣れたね。 竿は2本出した。僕の分と、いー君の分。 たくさん釣れたね。天気もいいし、景色も最高だった。 家に帰る車の後部座席で、いー君は満足そうな笑みを浮かべ眠っているような気

  • もう拳は振り上げられないから

    娘の不登校が続く。 完全なインターネット依存症……になってるように感じる。 出口が見えない…… 当然だろう、もうあの頃の『家族のあるべき姿』はもう手に入らない。 4人の家族の中の1人が死んだ。 そう、それはものすごく大きなこと。 残された3人は、一生言えない大きな傷を負った。 もう心から笑うことも、楽しく語り合えることもない。 娘をどう立ち直らせるか、どうすれば学校へ行ってくれるのか。 もう怒鳴れ

  • 君がいた部屋の窓の向こうに

    いい天気の日々が続く。 いー君の部屋は『あの日』のまま。 なにも増えていないし、なにも減っていない。全てはあの日のまま。 部屋のドアを開けるたび、彼の懐かしいにおいがする。 天気のいい日は換気をしてあげるんだ。 窓の外には、月桂樹の新緑の若葉。 冬の間に、カイガラムシにやられてしまっている枝を、僕がバッサリ落したんだ。 でも月桂樹は負けなかった。 ほとんど丸裸だった月桂樹の樹は、春を過ぎて瞬く間に

  • 君の横には彼はいなくて

    不登校の中学校の娘が、最近子供の時に抱いてたお人形さんと寝るようになった。 幼児返りなんだろうが仕方ない。 いー君が生きていたときは、良く小競り合いがあって泣かされていた娘。 いま、娘の横にはだれもいない。喧嘩する相手もいない。 ただお人形さんだけが、彼女の支えなのかもしれない。 兄妹……この世でたった一人だけのお兄ちゃん。 遺書になにも書かれずに逝かれた、娘の寂寥感はいかほどのものか。 昼間は誰

  • 増えない君のレパートリー

    君が好きだったカラオケに行く。 そう、君が行く3日前も、パパ……カラオケに行きたい。君はそう言ったね。 時間が遅かったからまた今度行こうね、って言ったけど…… あの時無理して君を連れていけば、運命は変わったのかな。 悩みを打ち明けて、君の話を聞いて思いとどまらせることができたのかな。 いまとなっては、もしも……の虚しい話でしかないんだけど。 僕は君をカラオケに連れていく。 遺骨ペンダントという姿に

  • 必要じゃなかったのかな

    遺伝子……DNA…… ふといろんなことを考える。 世の中、必要じゃないものは淘汰されていく。 物事、道具……そして生命。 必要なものだけが選別されて、世の中に残っていく。 僕は生れてはいけなかった命だ。 発生した時点でエラーだった産物。障害者。 そんな僕が、頑張って……健常者に負けないように働いて結婚して…… 次代への生命を作った。いー君という素晴らしい作品。 でもいー君は……僕と妻から引き継いだ

  • 君の部屋はあの時のまま

    もうどれくらいになるんだろう…… 1年半になるのかな。 息子の部屋は、いまもなおあの時のままにしてある。 今日は天気がいいから、部屋の窓を開けて換気してある。 片付けられるはずがない。片付ける理由もない。 片付けたって、新しい人が使うわけじゃない。 いつ奇跡が起きて、息子が生き返って帰ってきてもいいように…… 使いさしのファブリーズ…… 君は彼女が出来てから、ずっとおしゃれに気を使ってたよね。 日

  • ゆがみ ~全てはあの日から~

    全て額膜行かず、ちぐはぐな日々が続いている。 娘は結局3学期、引きこもりのまま終わってしまった。 新学期からどうなるのかもわからない。 まあ……大好きだったお兄ちゃんが、あんな形で死んだら、そりゃ色々歪むよな。 僕は結局、会社にわざと障害を知りつつ苦手な場所を押し付けられ、復職はポシャってしまった。 いまは、辣腕弁護士の先生が動いてくれて、解雇撤回で会社と争っている。 会社なんかに正直未練はないん

  • 家族という名の壊れて止まった時計

    娘の不登校は続いている。 正直手の打ちようがない、厳しくすれば何かあったら困るし。 さりとて、このまま堕落して思い詰めればやはり…… 夫婦ともども正直手が出せない。 でも、この小さな女の子の心をえぐった大きな爪痕を考えると…… 自分も思春期に大好きなお兄ちゃんを失えば……たぶん正気でいられないと思う。 笑いの絶えない家庭。 ごく当たり前の一般的な家庭…… あの日を境に、僕たちの家族という名の時計は

  • 前向いて立ちあがってんじゃねえ

    ちょっと息子の生前の彼女のツイッターが気になったので、のぞいてみた。 息子とのおそろいのアクセサリーの画面が、ゲームの画面に変わっていた。 分かってる…… 彼女もいつかは息子を忘れて、前を向かなきゃいけないってことを。 でもな……でもなぁ。 まあ1年ちょっと……ちょうどいい時期なのかな。 当然僕らは立ち直っていない、前を向けていない。 当然だ、『家族』だからな。 でも、息子の彼女は所詮は赤の他人な

  • 全力で笑えているのかな

    あっという間に年末…… テレビのバラエティ番組が充実してきた。 階下のリビングから、妻と娘の笑い声が聞こえてくる。 いいこと……なのかもしれない。 悲しみを忘れる事が出来ているのなら。 たった一瞬でも……あの日の事を忘れられずにいられるのなら。 君が居なくなった家。 何かが欠けてしまった家。 少しでも、悲しみを忘れられるのなら。 少しでも何か大切な存在が欠けていることを忘れられるのなら。 僕もそれ

  • 止まらない止められない連鎖

    あんまり暗いこと書いてても仕方ないので、少しこの場から離れていた。 家庭は少しずつ、彼の掛けた日常に慣れ始めている。 僕もまた、なんとか障害を引きずりつつずっと生きている。 知らないうちに、沢山の新しい人のブログが生まれている。 それぞれがものすごく悲しい物語。 それが止まることなく、新しくどんどん生まれている。 分かっている。止められないことなんか。 これからも、これからも……哀しい物語はどんど

  • 狂ったままの歯車

    ずっと体調が思わしくない。 妻も何か憔悴しているような感じがする。 娘の不登校状態は続いている。 あることがきっかけで、何もかもがうまく回らなくなっている。 家族が一人欠けること……ものすごく大きな意味があるんだな、と思う。 正直自分も立ち直れない。立ち直れるほど強くない。 ふさぎ込む娘に掛ける言葉も見つからない。 兄を失う……きっと思春期の女の子にはとてつもなく大きなショックなんだろう。 みんな

  • 潰えた沢山の名前と沢山の物語

    昨日は自死者の合同法要に行っていた。 去年と同じく素晴らしい法要だった。 自死に向き合う関西僧侶の会の皆様には、本当に感謝したい。 もちろんのこと……息子に会えるのでは、と思ったけどやっぱり霊感もないしダメだった。 でも、法要開始時に、消えるはずの無い電燈が一瞬消えたり…… 法要の終わりに、自死者の人たちの名前が読み上げられる。 息子の名前も呼ばれた。 呼ばれる沢山の、名前、名前、名前…… みんな

  • 蒙古斑

    日付が変わった。 今日は自死に向き合う関西僧侶の会の方々が開いてくれる、自死者の合同法要の日だ。 思えばもう1年になる。早かった。 思い切り泣いてこようと思う……最近自分の気持ちを吐き出す場所が無かったから。 ふと息子の事を思い出していたんだ。 彼が死に踏み切る数日前…… 彼がカラオケに行きたいと言ったのを、お小遣いが無いし時間的に厳しいからダメだと断ってしまった後悔。 彼の小さかったころの、色あ

  • また君に逢えたら

    ことしも、自死に向き合う関西僧侶の会の皆様が開いてくださる法要に来週参加する。 去年はまだ子供を失ったばかりで、ゆっくり考える余裕がなかったけど。 ある研究のお手伝いをした僧侶の方の話では、法要中に沢山の自死者の人が姿を見せてくれるんだとか。 霊感のない僕には解らないけど…… でも、会える気がするんだ。 信じていれば会える気がする。 いー君、今年も行くからね。 出来ることなら、僕に見える様に姿を見

  • 君が居なくなって1年

    日付が変わった。 今日で1年になる。 色んな事を考え、悩み、迷い、生きてきた。 あの悪夢の日からもう1年が過ぎた…… 嘘であって欲しい。 息子がいなくなったなんて嘘であって欲しい。 そう思っている自分がある。 でも、すでに出された結果は覆らない。それは痛いほど分かっている。 これまで子供と過ごした17年…… 決して悪い思い出ばかりじゃないんだ。 だからこそ悔しい。だからこそやり切れない。 『もう大

  • 湧きあがる黒い感情

    どうしてだろう…… 自分の中には、2つの自分がいる。 近所の……街角の……母親に連れられた小さい男の子。 それを見て優しく温かい心になる自分。 子供が元気な親が憎い……湧きあがる黒い黒い感情。 もちろん後者の方の気持ちを認めちゃダメなのは分かっている。 でも、うらやましいんだ。 生きている男の子を育てている親が。 憎んじゃいけない、分かっている。 でも何とも言えない気持にもなってしまうんだ。 どう

  • 勝手に回り出す日常の歯車

    いー君がいなくなって、もうすぐ1年だ。 それなりに僕たちは落ち着きを取り戻し、日常の歯車を回し続ける。 『恋人と親は悲しむが、3日とたてばもと通り』 ……そんな歌があったな。生きてることが辛いなら……だ。 3日は大げさだけど、彼が最初からいなかったかのように…… 日常の歯車は非情に回り続ける。 これでいいんだろうか……いや、良くないと思ってるよ。 人間って不思議だね……1年前、あれだけ魂の底から慟

  • 君の望みをかなえに行くよ

    『パパ、面白かった。また連れてきてな』 大きな魚が釣れた時の君の笑顔、夕暮れの中を歩く僕たちの姿。 海に行こうって約束してたよね。またこの釣り場に来ようって。 あんなに楽しみにしてたはずなのに…… 約束守れなかったね。 仕方ないよ、君がいなくなってしまったから。 でも、行こう。 水曜日、君の遺骨ペンダントを胸に……釣りに行こう。 水曜日、どうもお天気も晴れそうだ。 君の竿も持っていくよ。君の竿で釣

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