• 憂鬱のすきま 番外編 【黒と白】

    その、黒い闇が外を染める夜。 カーテンをひいた明るい部屋の中、チャニョルは新しく買ったおもちゃの説明書を読んでいた。 ソファに腰掛け、そばのテーブルの上にはコーヒーが半分ほど減って、置かれている。 相変わらずそのカップの上では、おかしなライオンらしき生き物がこちらに吠え掛かっていた。 コーヒーに再び手を伸ばしかけたとき、ドアが開き、風呂上がりのギョンスが現れた。 音に顔を上げたチャニョルは、手を止

  • あとがき (憂鬱のすきま)

    みなさま、こんにちは。 いかがお過ごしでしょうか。 フェリシティ檸檬です。 小話ではございましたが、お楽しみいただけましたでしょうか。 私は日々、チャニョルさんの性格や性質を大変好ましく思っていまして、そういった部分がこの話に表れていればいいなという気持ちでおる次第です。 そんなチャニョルさんと、フォトジェニックボーイ・d.oさんのあれこれは、前回の「シング シング シング」とはまたまったく違った

  • 憂鬱のすきま 6

    無骨で大きな手から、音の玉がこぼれ落ちる。 その長い指が黒と白のモザイクの中をゆったりと踊り、短調を奏でていく。 それは昨夜見た彼女の大きな瞳から溢れる水の粒。 ふわりと前に揺れる琥珀色の長い髪の流れ。 小さい肩の小刻みな震え。 グランドピアノにかがみ込み、前髪が眉を隠し、伏せた目はまつげに縁取られながら鍵盤を見つめ、閉じては、記憶に潜る。 口のすきまから苦しそうに吐息が漏れる。 同じように指から

  • 憂鬱のすきま 5

    撮影の待ち時間、横で忙しげに照明を直すスタッフをその大きな目に映して、チャニョルは椅子に座っていた。 口を心持ち開き、手にはお茶のペットボトルを持っている。 横に並んだ椅子のうちのすぐとなりに、ぎしりと音がした。 「ギョンス」 薄く化粧を施された斜め横から見るギョンスの顔は、以前見た何かの絵に似ている。名前を呼びながら、チャニョルは見とれるようにこちらを見ない彼の顔を眺めた。 ベッキョンが何かおか

  • 憂鬱のすきま 4

    早朝、スホ、セフン、ベッキョン、チャニョルがひとつの車に乗り、仕事に向かっていた。 日がようやく登り始める頃、暖房の効いた車中で、皆コートに首まで深く埋まりながら半分眠っている状態である。セフンなどは軽いいびきをかいて熟睡しているようだ。 チャニョルもうとうとしていたところ、「なあ」と耳元で声がし、腕をつんつんつつかれた。 隣に座ったベッキョンが、とろんとした目のチャニョルを覗き込み、言う。 「お

  • 憂鬱のすきま 3

    ラジオの仕事を終え、練習場に向かうと、いつもの部屋の前の通路に小さな人だかりができていた。なんだろうと訝しがりながらチャニョルが近付くと、その中にベッキョン、ギョンス、チェンが混じり、それ以外は若さに弾けるような少女たちであることが分かった。チェンがチャニョルに気付き、 「チャニョル」 と声をかける。 女の子たちもチャニョルに気付くと、わあー、きゃあーと、口に手を当てて上気した肌をますます赤く染め

  • 憂鬱のすきま 2

    入浴を済ませたチャニョルは、タオルで頭を拭き拭き再びダイニングルームにやって来た。 するとキッチンのコンロの前で、帰宅したギョンスが何かを作っている。いつもの真っ黒い部屋着を着込み、手元に視線を落としたままこちらを見る気配はない。 チャニョルは足音を控えて彼の後ろに回り込み、身長差を活かして頭の上から彼の手元を見た。小さな鍋が真っ白いミルクで満たされ、その上に木の枝のようなものがぷかぷか浮き、ふた

  • 憂鬱のすきま

    困ったな、とチャニョルは思う。 彼女とのデートの帰り、タクシーに乗り込んだ彼は、窓の外を流れる夜景を見るともなしに眺め、ぐるぐるに巻いたマフラーにくちもとまで潜った。 最近なんだかものごとがしっくりいってる感じがしない。 つい今しがた会ったばかりの彼女にも、何故だか責められているようなぎくしゃくした雰囲気を醸し出されてしまい、せっかく仕事を切り上げて約束を守ったのに、チャニョルは帰りたくて久しぶり