• 俯瞰の角度 番外編 【コミュニケーション】

    ふんふん、と、頭の匂いを嗅がれた。 それに気付いたベッキョンは、相手が誰だか予測して振り向いた。 思った通りだった。 「…イーシン兄さん」 ふにゃふにゃとした笑顔のレイが数センチの距離を置いて、ベッキョンの真後ろに立っていた。 ここはキッチンで、今は朝だった。 ベッキョンはシンクに食べ終わった食器を置き、これから洗おうというところだった。 対してレイは、シャワーから出たばかりのようで、シャンプーや

  • あとがき(俯瞰の角度)

    こんにちは。 皆様ご機嫌いかがでしょうか。 フェリシティ檸檬でございます。 レイとベッキョンのお話でございました。 もう少し突き詰めるとレイの独白のような内容をお送りしたように思います。 私の中でレイは、孤独の人…と言いますか、あらゆる意味で非常にプロフェッショナルとして振る舞うタイプの方で、心の内を出すことに基本的なためらいがあるように感じられます。 佇まいや振る舞いはゆったりと大陸らしさがあり

  • 俯瞰の角度 6

    外国語だけしか使えない環境に身を置いていると、自分の思考が脳内で高速回転しているのが空腹や欲情のように身体感覚として鋭く身を制する。 会話をしながら、レイはメンバーの体に触り、意味のない笑顔を浮かべてしまう。脳ではシナプスとシナプスをより早くつなげようとばちばち音がするようだ。どんな男にでも粉をかける尻の軽い女になったような気持ちで、レイは芸能生活を生き抜いてきた。 今こうして音楽番組の撮影に際し

  • 俯瞰の角度 5

    練習室の部屋の壁一面の鏡の中のレイが、レイを見返している。汗にまみれた体に白いタンクトップが張り付き、上がった息で口が心持ち開いている。流れる激しいヒップホップが、立ち止まったレイと対照的に、いまだに大音量で反権力を訴えている。 ふいにノックが聞こえる。 それは音と音の間に紛れた空耳のようであったが、間違いなくこちらを呼ぶ誰かの確かな声でない掛け声で、音楽とダンスと自分だけの世界からレイを水面へ引

  • 俯瞰の角度 3

    ステージに戻り、動きの最終チェックに入ると、照明の強弱がレイたちを包んだ。その色合いと動きも、メンバーを幻想的に映し出し、背後から見つめるレイを、現実とは乖離したような、時折自らを襲う白昼夢的な感覚に陥らせた。自分が立っている場所から数ミリ浮いているような、頭の中がふわりとするような、独特な感触は、一瞬のことではあったがいつもレイを無表情にさせた。焦点の合わない目をして前を見つめるレイは、端から眺

  • 俯瞰の角度 2

    音楽番組出演のためのリハーサルが始まった。 全員集まってのパフォーマンスは久しぶりで、ちょっとした緊張感がメンバー内でもスタッフ内でも流れていた。そんな中、レイが加わって動きが始まった途端、たとえそれが本気のものでなくとも、なんと全体のレベルが底上げされて見えることだろうかと、見守る者全てに感嘆の思いを抱かせた。そのダンススキルはグループ内でやはりカイその人と双璧をなす者であることを改めて皆に確信