• ロクイチ_132「拾」

    二人は、突っ立ったまま互いの顔をじっと見据えていた。 そのうち視線を外した大泉が、テーブルに置かれた情報誌を手に取ると、パラパラとめくって見始める。 「...............別れるって.........突然、なに言ってんだよ.........。」 大泉が動揺しているのは、ページをめくる指が震えているので伝わってくるが、何も言わずじっと黙ったままで、大東は立ち尽くしていた。 その様子に段々と

  • ロクイチ_131「離」

    大泉は、落ち葉を舞い上げ走って家にもどったが、自宅の1階にあるカフェのドアを勢いよく開けると、目に入ったのは母親の驚いた顔。 「あら、お帰り・・・どうしたの?お友達と一緒?」 母親の「凪」なぎが、息子の背後を覗くが、誰もいない。 「諒は?帰ってきた?」 なぎの言葉を聞かず、店内を見回して聞く。 「なんなのよ。今週はバイト休むんでしょ?!部屋で勉強するんじゃなかったの?夕べ諒ちゃんが言いにきたけど…

  • ロクイチ_130「焦」

    5限目の授業を終えて、津田と大泉と呂久の三人は中庭を通り抜け校門へ向かって歩いていた。 そのとき「ロクイチ!」と声がかかったので振り返ると、航一が1人で歩いて来る。 「あ、ひとり?」 駅までは大東が一緒の事が多いので、気になった呂久が聞いてみた。 「うん。………なんか、すごく怒ってて、不動産屋に行かなきゃ、ってさぁ…」 「ぇ?!」と、小さな声が大泉の口から洩れて、次の瞬間大泉の顔色が蒼白になってき

  • ロクイチ_129「改」

    大泉と知り合って、初めて聞く二人の喧嘩の話。大東には、頭が上がらないのかと思っていたので、呂久も津田も驚きを隠せない。 「大東くんは、心配しているんだよ。仕事がメインになって、学業を疎かにしているんじゃないかってさ。」 「うん、そう言われて………大学は、止めてもいいや、なんて言っちゃったんだ。」 「「……!!」」 思わず呂久と津田は、目を剥いてしまった。まさかそれほどの話になっているとは……。 「

  • ロクイチ_128「張」

    賑わう学生食堂の片隅で、いつものメンバーが座っている。 モデル風の男と、アイドル顔の天パアの男、そして今は、強面の影を潜めた黒縁メガネの男。相変わらず周りに、可愛い女子の姿は無い。 3人のオーラが強すぎて、もう誰も寄って来なくなった。 下級生の娘が、時々誘いには来るのだが、大抵は大泉が完全無視するので気まずくなって帰ってしまう。 「大泉くんは女の子が苦手?」 以前、呂久が聞いてみた。 「苦手ってい

  • ロクイチ_127「別」

    トン.....トン.....トン.... 隣から聞こえるこの音。 大東が考え事をするときは、何かしらペンに感情を込めるのか、さっきからずっと机の上にシャープペンシルの先を当てる音がしていた。 前に聞いた時も大泉が原因だったが、今回もやっぱり大泉だ。 こんな調子で今日一日を過ごすのかと思うと・・・・ 「ねえ、前に言ってた大泉が大学辞めるかも、っていうのはどうなったのさ?」 余計機嫌を損ねるとは思った

  • ロクイチ_126「荒」

    校舎に入り一限目の教室へと向かう航一の目に、大東と大泉の姿が映った。 大泉は呂久と同じ学部。 ここにいるのは、大東になにかあったのだろうかと不安になった。 そう思わせるほど大東の様子が普通ではなかったのだ。 声までは聞こえてこないが、興奮しているのか大泉の前を行ったり来たりしながら、何か話をしているようだった。 「おはよう、二人とも何してんの?」 わざと、聞こえるように大きな声で言うと、気付いた大

  • ロクイチ_125「染」

    「おぉぉ~さぶっ!」 大学までの通学途中、風に舞う落ち葉を踏みしめながら、呂久がコートの襟を立てて言う。12月の温かさは何だったのか、さすがに1月ともなれば寒さが身に染みた。 「後期試験の勉強できてんの?最近、津田のおじさんとこの仕事が大変だって聞いたけど。」 「うん、なかなか時間がないんだけど、なんとかね?!」 呂久が津田の父親の弁護士事務所でアルバイトをさせてもらうようになってから1年近くが経

  • ロクイチ_124「暖」

    駅からの帰り道大きな影と小さな影 触れそうで触れない手の甲にわずかな電気が走ります そこだけポカポカ暖かい   心の中で灯がともる 航一 「ねえ、大泉の料理と俺の、どっちがおいしい?」 呂久 「えっ、ソレ聞く?     大泉くんはセミプロだよ?!」 航一 「じゃあ、俺はアマチュア?     ・・・やっぱり大泉か・・・」 呂久 「そんなの、俺にとっては加瀬くんが一番!!     オレと津田家の人以外

  • ロクイチ_123「払」

    「あー、疲れた。」 風呂上がりの大泉が、部屋に入るなり大きく伸びをしながら言った。 「お疲れぇ。学校終わってからのバイトは9時までにしてもらったらいいのに。」 大東がベッドの脇に文庫本を置きながら大泉を見て言う。 「諒は9時までにしていいんだからな。俺に付き合う必要はないよ。俺はオフクロの負担を減らしたいだけなんだしさ。」 「何言ってんだ、俺だってここに置いてもらってるんだぞ、光熱費の負担だけでさ

  • ロクイチ_122「結」

     ロクイチって、時々地雷を踏むっていうか・・・ とても素直な感想とか疑問をぶつけてくれるよね。 航一は、大東の表情が崩れやしないかと思い、そっと隣に目をやったが、にこやかに微笑んでいて、呂久の言葉は別に大丈夫だったのかと安堵した。 「今は勉強が忙しいからな、暇を見つけて料理の練習はしてるんだけどさ。なかなか免許まではな・・・」 大泉が頭に手をやりながら言った。 「そうか、まあこれから時間は作れるよ

  • ロクイチ_121「騒」

    オープンキッチンの脇にあるドアから出てきたのだろう、航一と大東が並んでやって来た。呂久の顔を見た航一の視線に少し戸惑いがあるのは、自分たちの事を大東に話してしまったから。 「良かったぁ、ここで会えるとは思ってなかったよ。今日は帰る時間違ったから。」 「うん、ちょっと大東と寄り道してたんだ。そしたらご飯食べようってなって。」 「なら、帰りは一緒に帰れるね?」 「うん、そうだな。」 あまりにも二人が嬉

  • ロクイチ_120「彩」

    「ロクイチイ~、今日暇?」 大泉が帰り仕度をする呂久の背中越しに聞いてくる。 「うん、今日は何も予定が無いけど・・・」 「なら、うちの店来てよ。おごるからさあ。」 時計を見ると6時前。 今日は航一と帰り時間がずれていたので、ひとり帰宅するだけだったが、大泉のこの誘い方には、何か含みを感じる。 「津田は?」と大泉が聞くが、わりイ、と手でゴメンのポーズ。 最近どこかに通っているらしい。 彼女でもできた

  • ロクイチ_119「告」

    「お待たせしました」 その声で大東がテーブルからムクリと上体を起こす。 「・・・・大丈夫?なんか・・・大東のこういうトコ初めて見た気がする。」 「・・・・・・・・はぁ、ゴメン。急に変な事言って・・・」 航一と目が合わせずらいのか、目の前の紅茶に視線を落として言った大東だが、戸惑って揺れる視線は気持ちを表していた。 コーヒーを一口飲むと、航一はさっき買ったばかりの本を広げ、目の前の大東の顔は見ずに話

  • ロクイチ_118「伏」

    カチツ・・カチ カチツ・・・カチ、カチツ・・ さっきから、重たい空気と共に、カチカチと言う音が耳について離れない。 航一は、そうっと音のする方に、視線だけを向けた。 片方で頬杖をつきながら、もう片方の手でボールペンの芯をカチカチ、カチカチ出したりしまったりしている。 こんなに機嫌の悪い大東を見るのは初めてだ。 「……今日って、あったかいよね?! 帰りにどこか寄ってく? 本屋とか。」 ご機嫌伺いに、

  • ロクイチ_117「磨」

    講義中、隣の席で大泉があくびばかりするので、呂久は気になって仕方がない。 それに、あくびは伝染するので、自分まで眠くなりそうで。 「どうした?寝不足か?……」 呂久が、小声で聞いてみた。 「・・・うーん、まあね。最近うちのカフェって、夜も営業してんだ。お酒も出すようになってさ。」 「あっ、そうなんだ?!カフェバーになってんのか。」 大泉くんがこんな調子と言う事は、多分大東くんも。だね?! 二人は大

  • ロクイチ_116「封」

    ......もう12月だというのに今年は暖かい。コートの前を開けて歩いても平気なくらい。 地球温暖化をしっかり肌で感じていると、「おはよ。」と元気な声で挨拶された。 振りかえれば、そこには加瀬くんの友人の「千葉くん」がいて、ニッコリと笑いかけてくる。彼とは昨年、丁度怪我をして加瀬くんに会えないでいるとき、図書館で出会い、その後ちょくちょく見かけるようになった。 屈託のない笑顔で、オレの隣に来ると辺

  • ロクイチ_115「任」

    親にとっての一番の気掛かりは、自分の子供の成長。………らしい。 知能・体格・見た目・性格。後は将来性があるか?……ぶっちゃけ、金を稼げるかどうかで親の老後も変わってくる。 稼げればそれでいいが、親のすねっかじりなら、腰が曲がっても親は働き続けなきゃいけない。少子高齢化とは、そういうものだ。 いいのか悪いのか、オレには”親”と呼べる人がいない。 だから、自分で稼ぐしかない。 親がいなかったからこそ、

  • ロクイチ_114「悦」

    呂久は手に残ったローションと、自分たちの放った白濁をティッシュでふき取った。 「水持ってくるね?!待ってて。」 そういうと、部屋を出て行く。 ひとりベッドに横たわる航一は、まだ躰の熱が抜けきらず、シーツの冷たさを確かめるようにうつ伏せになった。 最近俺の躰はおかしいんだ。 男の性は出したら終わりってとこがあって、女の人みたくいつまでも余韻が残る事は無いらしい。俺には分からないんだけどね? なのに、

  • ロクイチ_113「快」

    初めて加瀬くんを抱いたのは、もう一年も前。 相変わらず男の肌とは思えない程滑らかだ。 「ねえ、今でもあの・・・赤い実・・・食べてるの?」 息を整え、背中にまわした手で肩甲骨をなぞりながら聞いた。 「ん.......うん、クコの実.......。食べてる........ぁ.......」 オレの膝の上に跨ってる加瀬くんの背骨の突起を指の腹で撫でると、小さく吐息を漏らした。 「感じるの?.......

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