• 「空海の風景」司馬遼太郎 中公文庫

    司馬には、硬軟入り交じった著作が多いのですが、この本はその司馬の中でも、もっとも硬い方の著作に属するでしょう。剛直な筆致で、平安期の巨人空海を描きますが、著者の筆が思うように伸びず難渋しているのが分かります。筆者は、後記でこの伝説に包まれた巨人弘法大師の衣の翻りでもいいから描いてみたかったと言います。企ては果たして成功しているかどうか。私は際どいものを感じます。やはり、司馬には鎌倉期以降の日本人の

  • 「殉死」司馬遼太郎 新潮文庫

    ロシア戦役で最高司令官を務めた乃木希典を描きます。乃木は当時の論文で、「無能論」が書かれるほど戦術家としては取り柄を持たない人でしたが、松陰と同じ師によって教育されたその精神力は巨魁と言ってもいいものでした。有名な二〇三高地への攻撃命令は、まるで明日の馬の準備でもするような口振りで伝えられます。病に伏せっていた明治天皇を慮った場面は、巧まずに、読む者の微笑を誘います。生涯、一武人としての生を貫いた

  • 「アメリカ素描」司馬遼太郎 新潮文庫

    歴史小説を得意とした著者が、アメリカについて書いた題名通りのデッサンです。ただ、司馬の眼光は鋭く。この不思議な大国の急所をよく見抜き、秀れた筆致でその暗部も明部も鮮やかに描き出してくれます。「普遍性があり便利なモノやコト、もしくは思想を生みつづける地域は地球上にアメリカ以外ないのではないか。」と著者は言います。憲法のみが国としての存立基盤である不思議な人工国家アメリカを語り、独自の文明論を展開しま

  • 「馬上少年過ぐ」司馬遼太郎 新潮文庫

    戦国期の名将、伊達政宗を描きます。司馬のこの短編は、優に他の伊達政宗に関する書物を凌駕しています。題名は、漢詩もよくした政宗の「馬上少年過ぐ、世は平らかにして白髪多し、残躯は天の許すところ、楽しまずんば又如何せん」からとられています。政宗がこの漢詩を詠んだ時、戦国の世は終わり泰平の世が始まっていました。油断も隙もなかった戦国の世を振り返り、今の我が身を残躯<ざんく>と顧みました。戦国武将随一の名将

  • 「国盗り物語」司馬遼太郎 新潮文庫

    油売りの身から一国の城主にまでなった斎藤道三と稀代の天下人織田信長を描きます。道三の話柄には、多くフィクションが紛れ込んでいる感がありますが、一介の貧民から城主にまで登り詰めた男を描いて、痛快ささえ覚えます。信長については、「信長公記」があるおかげでしょう。写実的な筆致でその人物像を捉えます。戦国時代の二人の名武将を描いて、読み応え充分な書物に仕上っています。エンターテイメントとしても楽しめる小説

  • 「世に棲む日々」司馬遼太郎 文春文庫

    数多い司馬の歴史小説の中でも、もっとも優れた著作と言っていいでしょう。吉田松陰と高杉晋作の二人の傑物を描きます。司馬は、日本は鎌倉時代になって、始めて日本人の顔が見えるようになると言っていますが、法然と親鸞の師弟の繋がりを先駆とする日本の師弟関係、時代は経て、幕末の動乱期になっても健在なまま保持されたこの強靱な糸を松陰と晋作の師弟間の中にも見ています。欧米列強の外患に対しても強い力を発揮したこの上

  • ★司馬遼太郎「街道をゆく」

    12 26

  • 祖母の好きなもの

     祖母は二十歳のころ『源氏物語』を読んだと言っていました。与謝野晶子訳だと大正3年と大正12年と昭和13年とありますが、大正3年のダイジェスト版を大正11年ごろに読んだと思います。  与謝野晶子版の大正12年の草稿は大震災で焼けたのです。昭和13年は祖母はすでに三十代半ばです。谷崎潤一郎訳には間に合わなかったと思います。ですが、そもそも男女のことばかりで「源氏」はあまり好きでないとも言っていました

  • 角川版 ビブリア古書堂の事件手帖 5巻

    角川版 ビブリア古書堂の事件手帖 5巻を電子書籍化。今巻では司馬遼太郎作品を中心にしたお話。私も歴史作品が好きなので、司馬遼太郎の作品はいくつか読んでいるのですが、推理小説を書いていたのは知りませんでした。しかも無理やり書かされたとか、探偵はどうして秘密を暴き出す事に執念を燃やすのか解らないとか、もう二度と書くことは無いとか言っていたりするそうなので逆に読んでみたくなりました。しかし、全集からも抜