• あとがきのようなものと戯言のようなもの(密葬)

    こんばんは、皆さま。昨日飛んでいた蚊を探しておる者です。 こちらは『密葬』と言うお話の、あとがきに見せかけた大変長い戯言になりますゆえ、「なぜか今は戯言しか聞きたくない気分である」と意固地になっておられる方には、ぴったりだと思っておりますゆえ、そんな皆さまのみ、宜しければご覧になって頂けたらと、思ってございます。今回は短編でありますが、いつにも増して長い「あとがきのようなもの」となっております。

  • 「密葬 最終回」ユノ×チャンミンの短編

    そして、出て来た彼の母親の言葉に、泣いた。 「目が覚めたのよ」 その言葉の主も涙を浮かべていた。 ユノは病院にいた。 彼女は家事をしてから再び行くと言うということで、病院にはユノの父親がいた。 夏の前に、意識不明になった体が二か月の時を経て目を覚ました。 ここ一週間は特に状態が良くて、手足が反応することもあったから、と三階の病室の入口で父親に説明を受けた。 俺はこれこそ幻覚でも見ているのかと思った

  • 「密葬 8」ユノ×チャンミンの短編

    また夜が来ていた。 ソファーに座ったまま、ちらちらと動く明かりが、視野に入ってきて、意識を取り戻して、そちらを見た。いつの間にか照明はこれだけになっている。濡れた状態の視界で見ると、どこかの市議が不正に金を受給していたニュースが流れていた。 ユノは? ユノがいないはずない。 でも、隣はまだ空いていた。座席部分を触ってみたら、クーラーに冷やされて冷たかった。顔を上げても誰もいない。 立ち上がって、部

  • 「密葬 7」ユノ×チャンミンの短編

    「ユノ」 テレビの音が耳に入らなくなる。体中の血液がどこかに引いていく。  「ごめん、チャンミン」 「……いつから?」 「さっき、いきなり」 「全然、見えない?」 「うん」 綺麗な青いシャツがぼやけていくのをこらえた。 「ユノ、ベッド行きませんか?俺が誘導するから。そこで今日は話して過ごそうよ」 「ごめん、チャンミン」 俺は立ち上がろうとした体を止めた。俺を目で追えずに、静止したままのユノを見なが

  • 「密葬 6」ユノ×チャンミンの短編

    「歩いてて、夜道で。横を走っていた車が歩道に乗り上げてきた」 スピードは落としてなかった。痛みは覚えてないけど、体から音がした。 ユノが呟いているのを聞きながら、夜が明けた。 その体からした音は、どんな音だったか、俺は聞かなかった。少しだけ眠っていた。でも目を開けたら、そのままの顔があって、嬉しかった。 「今日はずっとこうしてませんか」 朝の光が届いているベッドの上で言ったら、「チャンミンの日常を

  • 「密葬 5」ユノ×チャンミンの短編

    そんなに自分達は悪いことをしただろうか。非科学的なことは、全く信じていない。確かに心のどこかでそんな未知の領域を望んでいることはあったかもしれない。 でも、こんなに最悪な体験は望んでいない。 俺は放心していた。これで想いが叶ったなんて言えるのか。 目に焼き付けるよう俺を見て、ユノが俯いて言った。 「行く」 意を決したみたいに勢いよく踵を返されて、正気に返った。 「ユノ」 ユノが振り返る。 「何言っ

  • 「密葬 4」ユノ×チャンミンの短編

    伸びて来た癖毛を無造作に掻き上げた。そんな錯覚を今更気にしてどうするんだ。 やっぱりユノを行かせるんじゃなかった。 こんな時間になっても来ない。いつまで噛みしめてるつもりなんだ。それとも仕事が遅いのか。 連絡先さえ言わずに出て行くなんて、確信犯に思えて来る。俺だって聞く暇がなかったほどの忙しなさだったんだから、それはないと思いたいけど。 開いたままのパソコン画面の前で頭を抱えて、大きく溜息を吐いた

  • 「密葬 3」ユノ×チャンミンの短編

    それを視認しながら、そんなものにも意識がいってしまうほど、俺は気を紛らわせたかったんだと思う。 恋愛の始まりには凡そ相応しくない表情で何も答えてくれないから。あんなに固く、言わないと誓った相手に、俺は、吐露したのに。でもそれはユノが先に告白したからで。 過去の話をするためにわざわざここへ来たなんて思えない。 なのに、その悲しい表情は何なんだ。 「……俺、早とちりしました?」 そんな事思っていない。

  • 「密葬 2」ユノ×チャンミンの短編

    呆然とその姿を眺めた。綺麗に並んだ歯並びは、変わらない。大きな犬歯が前に出ていた姿の時から、仲良くなった。その歯並びに変えた時「痛いよ」と後輩の自分に笑っていた顔が昨日のことのように思い浮かぶ。 この国の中で、自分達の高校は、自分達だけの祖国を持つ人間で構成されていた。だけど、そこから飛び出して、この国の人達と同じ大学に行き、二人でこの地で名を上げようと約束をしていたのだ。だから今でも日本名は使わ

  • 「密葬」ユノ×チャンミンの短編

    テレビをつけた。 年代物のテレビは、灰色の画面の中心に弾ける様な音と共に丸く白い円を浮かび上がらせたあと、像を映し出した。 どこかの市議会選で起きた不正をニュースが報じている。 見出しは簡素で、ただ、読み上げる声には一定の技量があった。その技量には、見ている人間は少ないと言う諦念まで含まれてはいるけれど、その正面に胡座をかいている男は、それに漠然と目を向けてはいるが、見てはいないし、聞いてもいない