• コント22   (レーゼ落語)趣味のたまり場

     歳を取ってきますと趣味の多い人の方が人生を楽しむ上に長生きもします。定年退職をしたからと言って急に趣味を持とうたってなかなかそうはいかない。若いうちから趣味の二つ三つは持っておくのがいい。 「健さんに武さんお揃いで、インサイダー取引のいいアイデアでも出ましたか。」 「居酒屋&カフエ暖談のアイデアも出ていますが。今日はね趣味を沢山お持ちのご隠居さんに趣味についての知恵をお願いしたいと。」 「おおそ

  • コント21  (レーゼ落語)インサイダー取引

     健さん、そんなにあくせくしなさんな。 世の中はかりの世なれば借るもよし 夢の世なれば寝るもまたよし  そうはいってもね。ご隠居さん 世の中はかりの世なれど借りにくし 夢の世なれどさうも寝られず  昔の人はうまいこと言いますね。 「健さんに、武さん二人お揃いで何事です。」 「他でもないんですがね。私も武さんも退職をして2年が経ちまして、大家さんに知恵を借りて少しでも退職金を増やそうと思いまして。何

  • コント20   じんじいどう

     桜の花が、風に散る頃になると思い出す。峠を越えて、海の見える僻地の教師として生活した時のことを。  僻地に三年いれば出身地の学校へ帰すという約束で、健一はそれを信じ、三年間を過ごし、四年目が過ぎ、五年、六年目の春を迎えてしまつた。  僻地では、年度当初に、僻地振興大会を持つ、新卒教師が一名、三年以上の僻地教育経験者から一名。計二名の者が大会に先だち意見発表を行ない振興大会を盛り上げる役を果たすの

  • コント19  ガーネット パワーストン

     特急の寝台車の中で着物のよく似合うご婦人と同席した。珍しく寝台車は空いていてゆったりとした気分でそれでいて少しだけ華やいで心臓の動機が聞こえてくるような旅ができそうな予感がした。  駅に着いたとき婦人は退屈そうに車窓の夜景に自分の姿を重ねて髪を手で軽くなぜた。私は何気なしに週刊誌より眼をあげて婦人を見た。婦人の着物の衿の隙間からあざやかな痣であろうかキスマークであろうか私の目に留まった。私はごく

  • コント18(レーゼ落語) 女房に恋するの巻

     サラーリーマンにとって土曜日の夜なんざあ、まさに天国ですなあ。近頃は週休二日の所が多くなって、金曜日がキンキンキラキラ金曜日と言って、土曜日から金曜日に天国が移ったそうですが。  まあどちらにしても、それぞれが好きなことに生き甲斐を感じることで、結構なことです。  趣味の多様化、個性化などと申しまして、車を飛ばしてちょいとお風呂に行く人、スポーツセンターで汗を流す人、土いじりをする人、何もしない

  • コント17 まちがい電話

    「もしもし、もしもし・・・」  妻はちょっと怪訝な顔をして夕食の席に戻ると残ったご飯の上に塩昆布と梅干を一個のせて濃茶をかけて流し込んだ。  夫の啓一は食事を終えて娘と将棋盤に向いあって駒を並べ始めた。 「あなた、女の人の声よ。」 「どうかしたのか。」 「切れたのよ。」 「まちがい電話だろう。」  娘は角道をあけた。啓一は金を角の横につけた。  こうやって、娘と夕食後に将棋を始めるようになってもう

  • コント16 異常乾燥注意報

     昨年の秋だった。油ぎった夏からからりとした秋風が吹く頃に毎年開催されるアジア心理学研究会に参加した。  九州在住の心理学に興味と関心のある成人が集まって、日常のケース研究を報告しあう極く平凡な会である。  別に、会則らしい会則もなく、要するに同好の士が必要経費を手出しで、一所に集まって日頃のたまりにたまった要求不満をぶちまけるだけの会である。  まあ、誰もがよくやる同窓会の変形したもので、チョッ

  • コント15  そ ぶ り

    「去る者は日々に疎し」と言われるが、学生時代までの友情もお互いに結婚し、家庭ができ子ができ、職場がちがうと、もうそれは回想の中でしか感じ取ることのできない凍結したものになってしまうことが多い。  彼も私も、家はそれほど裕富ではなく、かといって他人が目をふさぐ程の貧乏でもなかった。昭和初期における下級官吏程度の生活ぶりであった。  彼と私は、学力の点でも体力の点でも似たかよったかの、まあ普通児であっ

  • コント14 アンドレモジン

     木々の葉も色変わり、公園のそこここに落葉の吹きだまりが、音をたて移動し、赤く咲き残るサルビアの花にも、さみしさと人恋しさを感じる季節。  公職を退いて、早、半年が過ぎ、今では唯一の日課が、こうやって、夕食前の一時、郊外を散策し、公園のベンチで一服することになってしまった。  現職当時は、退職して自由になったら、あれもしよう、これもしようと思いめぐらしたものだが、いざその環境になってみると、人間が

  • コント13 大友吉統(義統)

     大友宗麟の嫡子、吉統(よしむね)は、吃りであった。吉統が吃り始めたのは、ちょうど満二才の誕生日を過ぎた春、一五六〇(永禄三年)の桜の花が春の風に舞い散る心の痛む一日であった。  この日、吉統は強い風のために庭に出ることもできず、縁側で供の女と母と三人で遊んでいた。吉統は八か月より歩き始め、満一才の誕生日を迎えた時には、かなりのコトバを上手にしゃべっていた。健康で頭の良い将来に期待のかけられた優れ

  • コント12  目 撃 者

     安政五年(一八五八年)佐野島大火三十四戸焼失。その年、島民は生活に必死であった。働ける者はみな働いた。漁に畑仕事にと。  源造も夜のあけぬうちから、裏山の段々畑で芋のとこ作リに汗をかき、太平洋の黒い海原から昇る朝日を拝んで一息いれた。 「やせた土地には、さつま芋が一番。」  源造は一人言をいいながら鍬を持った。豊予海峡の荒波が突き出た岸壁にぶちあたり朝の陽光にきらめきながら飛び散る。入江の中では

  • コント11 もうかえるの

    「おかあさん、もう帰るの」  恵美は残念そうにつぶやくのがくせになってしまった。 「そうそうお前のおつき合いもできないよ。早いもんだね。お前が結婚してもう二ヶ月が経ったよ、頑張らなきゃあ」  満更でもない微笑を浮べて、母は恵美を元気づける。外国航路の舟乗りに嫁にやった責任感のような気持ちから母はたびたび娘の家を訪問した。 「オカアサン、モウカエルノ」 「ああ、帰るよ」と、いいかけて、母は笑った。

  • コント10 素晴らしき脱税

     ここは大分県の南の端、いわしと芋の産地K町である。K町におろやんとしめやんという実に仲のよい二人のおばあさんがいた。どうしてこの二人、仲がよいかというと、ちょっとしたわけがあった。 おろやんもしめやんも、朝から晩まで、孫の守りをして、町中を歩きまわって一日を過ごしていた。おまけに、二人とも実によく屁をひるくさい仲であった。  屁をひるといっても、おろやんとしめやんの屁は、気持ちのよい、豪快な屁で

  • コント9 神様、仏様、安男様

     安男は無神論者であった。  今年3月に満60歳の定年退職をして、悠々自適の年金生活に入った。三歳年下の妻、哲子もいたって健康で、長男夫婦に二人の孫、娘夫婦に一人の孫、計三人の孫に恵まれて順風満帆の生活を送っていた。  安男は根っからの無神論者で神も仏もその存在を信じていなかった。神社に行ってもお寺に行っても手を合わせることも願い事を唱えることもなく、ただぼうっとその場に立って眺めているだけであっ

  • コント8 なみだ橋 

     国に国境があり、県に県境があるように、血縁の親子の中にも越すに越されぬ境がある。  このなみだ橋は、町と村との境を流れる谷川にかけられている幅三メートル、長さ五メートルほどのごく小さい橋である。小さな橋ではあるが村に住む人々にとっては、自分たちの世界と他の世界とを区別する指標でもあった。村人は旅立つ人をこの橋まで見送る。それから先には一歩も進まない。どんなことがあっても、このなみだ橋で別れを告げ

  • コント7 マッタケ

    「もう焼けたんじゃないんか。焼けたら一番にばあちゃんに持っていかにゃあ」  長男のはじめは、酒の燗をつけながら、妻の滝子に言った。  村の秋祭りの日、おかよばあさんの家では子供たちが全員集まり、ばあさんの取ってきたマッタケ料理で酒盛りが始まる。  ばあさんにとっても、子供たちにとってもこの家の一年の最大に楽しい行事であった。  隣村に嫁いでいる一人娘の玉江も孫を連れて帰ってくる。  家の中が、焼き

  • コント6 続・望遠鏡

     佐野啓一、四十歳。東京のN大学教育学部心理学科を卒業して、現在は地方大学の講師。連続する雨の休日にいささかうんざりし、望遠鏡のレンズを磨きながら、フラストレーションの蓄積にイライラしていた。  ゆうべの天気予報では、きょうは午後から曇り、ところによっては晴れ間が出るとか。啓一はそれに期待をかけて、望遠鏡を磨いていた。  週三回の講義と、本を読むか、ものを書いているかの生活が十二、三年も続くと、生

  • コント5 望遠鏡

     彼、一九三一年(昭和六年)一月一日生まれ。当年四十歳。東京の大学、教育心理学部を卒業して、地方大学の講師をしている。  学生時代は行動的で雄弁家で人付き合いも大変評判のいい青年であったが、あまり学問をしたせいか、無口になり、行動力がなくなり、人間嫌いになってしまった。  かといって、人生がつまらないものだとはちっとも思っていない。寸暇を惜しんでは、読書をし、読書に疲れては瞑想に耽る。  自己内省

  • コント4 たった一人の女客

     ボラ、チヌ、イサキ、ハマチ、アジなどが釣れはじめると、この僻南の寒村も釣り人たちでにぎわい始める。特に土曜日の午後は泊まり込みの客で満員である。 それを当て込んでか、この地に、ちょっとデラックスな金持ちの退屈しのぎの片棒をかつぐような海辺のホテルが建った。  透き通る紺碧の海原に続く、餅膚の砂浜、濃い縁の松林、その中にピンク色の屋根をのぞかせて海辺のホテル桃源郷が、こじんまりとすわっている。  

  • コント3 黙とう

      黙 と う  冷たい冬の星座が、ちかちかと輝いていた。  空を仰ぐのも久し振りだ。振り返ると、街路樹の彼方にオリオンが澄んで見える。突然、進の背後から、けたたましいサイレンの耳をつんざく音が追いかけてきた。酒に酔った頭は一瞬混乱し、そして、異様に冴えてきた。もう忘れてしまっていたはずの二十数年前の記憶が体の中を駆け巡るのである。  日本は昭和十六年十二月八日、突如ハワイ真珠湾を攻撃し、太平洋戦

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