• 【読み切り小説】「夢物語」

    「じゃあね佳菜。先行ってるね。」 玄関で男の声が聞こえ、扉がバタンと締まった。 その声が聞こえたと同時に佳菜はベッドで目が覚めた。 ふと枕元に置いてある目覚まし時計に目をやる。 (7時か。まだ早いけどもう起きようかな。) 佳菜はベッドから降りて洗面所に向かった。 洗面所で顔を洗い、タオルを顔に押し当て軽く息を吐いたあと佳菜はリビングに向かった。 リビングには誰もいない。佳菜一人だけ。 テーブルには

  • (習作)刺し殺しと同情の葛藤

    《書く前の心がけ》  出来るだけ単純に、プレーンに書こうと意識しようと思います。  テレビや漫画などのフィクションでいつか見たようなことが起こった。つまり、ぼくのよく利用する大通りに、通り魔が出現したのである。  通り魔は男で、彼はどこかの飲食店から持ち出してきたかのような、刀身の長い包丁を、捕まえた女性の喉元でぎらりと不気味に光らせていた。  大通りは混乱して、ぼくは何人もの人に強引に押しのけら

  • (習作)『恋していたあの50センチ』

     距離はいつも50センチメートルだった。ぼくの昔の彼女、しーちゃんとのあいだに空いた、いつもの距離は、そう、50センチ。  もう別れてしまったけど、今でもよく当時のことは覚えている。ぼくが彼女と付き合っていた、およそ二十年前の、まだ高校生だった頃のあの日々。なんてったって、それがぼくにとって唯一の、かけがえのない青春だったのだ。  現在ぼくは結婚して娘が一人いるが、嫁との交際は、しーちゃんの時とは

  • (習作)暗いお話

     ぼくが実の家、すなわち親の膝下を離れてから、かれこれ一ヶ月経つ。  それは、一人暮らしを始めるのではなく――何か他の、大人っぽい、恥ずかしい思いをせずに済むような言い方があれば良いのだが――家出である。  ぼくの年齢が十代の半ば、ないしは後半であればまだ、家出しても、それは若気の至りとか、青春の嵐として、幾らかの理解が、例え軽蔑の念と共にではあれ、得られるであろう。  だが、残念ながら、ぼくはす

  • 次の魔法まで

    コーヒーの湯気が窓から差し込む朝日を受け、光を帯びてまるで魔法のあとの名残のようだ。 シウミンは静かな時間が好きだ。朝も。もちろん言うまでもなくコーヒーも。 自分のようなタイプの人間が、大人になっても大人数でこのような暮らしをしているなんて不思議だ、とテーブルの上に頬杖をつき、シウミンは何度繰り返したか分からないこの現状への率直な感想をまた自分だけに語り掛けた。 不満があるなどというそんな簡単で安

  • 冬の夜

    眠っているとき寒いなと感じると、人のベッドに潜り込んで暖をとる癖がカイにはあった。 決して小さいとは言えない図体をしている彼を歓迎する者などいるわけがない。だいたい女ならいざ知らず男に抱きつかれるようにくっつかれるなどごめんこうむりたいと皆が思っていた。 しかし誰しも人肌恋しいときがある。 恋人と別れたとき。 仕事でミスをしたとき。 家族からあまり良くない報告が入ったとき。 そういうときとカイの癖

  • しつけのしかた

    夕食を終え、それぞれがそれぞれの場所で束の間のゆったりとした時間を過ごす中、セフンとスホが一室でともにいた。 「お前、あの演出で俺を担ぎ出しすぎだぞ」 壁に寄りかかり、不細工な人形を膝に抱えながら少年漫画を読んでにやつくセフンに、ベッドに横になり、雑誌へ目をやりながらスホが投げつけるように言った。少し拗ねたような口調で。 「へ?あの演出?」 セフンは気の抜けた顔のまま、スホの寝転がったベッドに視線

  • (習作)ワンダー・アラウンド・テール~かれらがめぐるもののこと~

     或る大きな球体、ボールやメロンのようにまんまるで親しみやすく、それでいてどこか神秘的な縁遠さのある、その周りの道を、ぼくは随分長い時間さまよっている。  道は複雑に入り組んでいて、一本の道は何本もの似たような枝道に分岐し、また、道と道の間は青々と茂る木々に遮られて遠くを見渡すことが出来ず、その様はまるで容易に抜け出せない迷路のようだった。  ぼくは、腰の後ろに手を組んで、足取りは緩やかに、屈託な

  • 蒼き鋼のアルペジオ 戦闘詳細2059

    蒼き鋼のアルペジオのガイドブック 戦闘詳細2059 を購入。ガイドブック系は単行本サイズでも値段が高かったり、内容もまとめが中心なのであまり購入しませんでしたが、このガイドブックは値段が通常の単行本と数十円しか違わず、更に購入申し込みを忘れて入手し損ねていたドラマCD付属の短編マンガが収録されていたので購入。短編マンガは2編収録されており、まずはドラマCDに付属されていたタカオの短編。重巡高雄のメ