• 等間隔のベンチ(習作)

     湖のすぐそばに等間隔に置かれた5台のベンチ。石製で新しくはなく、はげていたり欠けていたりしていて、造りはお粗末だ。しかし、座れぬほどではない。その間隔は10メーターほどで、まぁまぁ大きい。首を回して見てみたら、隣のベンチは開いた手のひらより小さい。  最初、誰もベンチには座っていなかった。その脇を人が通り過ぎることはあっても、誰もそこで立ち止まり、腰掛けようか考える者はいなかった。  だが、しば

  • (習作)刺し殺しと同情の葛藤

    《書く前の心がけ》  出来るだけ単純に、プレーンに書こうと意識しようと思います。  テレビや漫画などのフィクションでいつか見たようなことが起こった。つまり、ぼくのよく利用する大通りに、通り魔が出現したのである。  通り魔は男で、彼はどこかの飲食店から持ち出してきたかのような、刀身の長い包丁を、捕まえた女性の喉元でぎらりと不気味に光らせていた。  大通りは混乱して、ぼくは何人もの人に強引に押しのけら

  • (習作)『恋していたあの50センチ』

     距離はいつも50センチメートルだった。ぼくの昔の彼女、しーちゃんとのあいだに空いた、いつもの距離は、そう、50センチ。  もう別れてしまったけど、今でもよく当時のことは覚えている。ぼくが彼女と付き合っていた、およそ二十年前の、まだ高校生だった頃のあの日々。なんてったって、それがぼくにとって唯一の、かけがえのない青春だったのだ。  現在ぼくは結婚して娘が一人いるが、嫁との交際は、しーちゃんの時とは

  • (習作)暗いお話

     ぼくが実の家、すなわち親の膝下を離れてから、かれこれ一ヶ月経つ。  それは、一人暮らしを始めるのではなく――何か他の、大人っぽい、恥ずかしい思いをせずに済むような言い方があれば良いのだが――家出である。  ぼくの年齢が十代の半ば、ないしは後半であればまだ、家出しても、それは若気の至りとか、青春の嵐として、幾らかの理解が、例え軽蔑の念と共にではあれ、得られるであろう。  だが、残念ながら、ぼくはす

  • (習作)ワンダー・アラウンド・テール~かれらがめぐるもののこと~

     或る大きな球体、ボールやメロンのようにまんまるで親しみやすく、それでいてどこか神秘的な縁遠さのある、その周りの道を、ぼくは随分長い時間さまよっている。  道は複雑に入り組んでいて、一本の道は何本もの似たような枝道に分岐し、また、道と道の間は青々と茂る木々に遮られて遠くを見渡すことが出来ず、その様はまるで容易に抜け出せない迷路のようだった。  ぼくは、腰の後ろに手を組んで、足取りは緩やかに、屈託な