• 「心中の道連れ」番外編 『有効な質問』

    自室のベッドのヘッドに寄り掛かったギョンスは、相も変わらず台本を読んでいた。 その同じベッドの足元にはあぐらをかいたベッキョンが、ポータブルのゲーム機で遊んでいる。 ぽっかりできた昼間の空き時間に、ふたりはなんとなく一緒にいた。 他の部屋にも何人かメンバーがいるため、これ以上距離を縮めるのは難しかった。 ギョンスの足と、ベッキョンの腰が、触れるか触れないか。 はっきり言ってふたりとも、台本もゲーム

  • あとがき 「心中の道連れ」

    お久し…ぶりで…ございます…。 フェリシティ檸檬でございます…。 お忘れになってらっしゃる方がほとんどかなあと思うところではありますが、申し訳なさと羞恥を抱えつつ、皆様の前に出てきた次第でございます。 とうとう、「心中の道連れ」のあとがきを書けることとなりました。 感無量でございます。 書きたい書きたいと思いながらもキイボードが壊れ、そんな状態で毎日が過ぎ、書けない中、覗くのも怖いやら悲しいやらで

  • 心中の道連れ 20

    ギョンスはベッキョンの手を取ったまま、クローゼットのある部屋へと入って行った。 3人分のクローゼットとなっているそのスペースは、ふたりでいるには多少窮屈だった。 ベッキョンはギョンスの考えを推し量ってひとりで赤くなった。そしてそんな自身を恥じた。 いちばん小さな灯りだけ点け、扉を閉めたギョンスがベッキョンを見た。 ベッキョンはぼさぼさの頭にその華奢な指を差し込みかたちを整えようとした。視線を外して

  • 心中の道連れ 19

    もう、待っていられない。 CMを見てから、熱に浮かされたようになった俺は、仕事をこなし、それでも時間が遅々として進まぬことに必死で耐えた。 どんなに遅くなっても今日は、必ず帰って、会う。 そう決めていた。 演じていたあの若い女優の、そのもともとの薄い顔立ちがベッキョンと重なり、表情が示すひとつのことを俺に熱心に伝えてくるばかりだった。 待てない。 そしてやはり深夜になった帰宅で、そこのみにかろうじ

  • 心中の道連れ 18

    ギョンスの囁きと、化粧品会社のロゴが一緒に、俺の前から去って行った。 俺は口に突っ込んだ歯ブラシのヘッドの横から、歯磨き粉が伝い落ちていくのを感じながら、耳の奥で澄んだ低音が反響するに任せていた。 ぼくのものになって それは呪文の如く俺に作用して、自分自身が体から抜け出、すべての現実がいっきに遠くなった。 俺のことを見つめる、黒々と太い眉の下の、吸い込まれそうな球体。それは中心がとらえどころのない

  • 心中の道連れ 17

    あのとき、ジョンインが起きてこなかったら。 撮影の間の待ち時間、控室で俺はマネージャーとふたり、休憩していた。 ここのところたとえ寝不足でも、細かく睡眠を取ることがあまりなかった。 うとうとすると、おかしな夢ばかり見てしまう。 人に聞かれたら羞恥で死にたくなるような声を出しながら目を覚ますことが、ままあった。 それを避けるためにも、完全にひとりでない限り、極力昼寝をしないようにした。 音楽を聴きな

  • 心中の道連れ 16

    「じゃあ、俺寝るー」 ごちそうさまーと言いながら、ジョンインは丼とグラス、箸を持ってテーブルを立ち、シンクに置くなりさっさと部屋を出て行こうとする。 「お前洗ってけよー」 俺が声を掛けると、ドアが閉まるぎりぎりで、あとでー、と返ってきた。 「ったく」 と言いつつ、俺は目の前のギョンスとふたりきりになったことに自分の意識が向くのに、気付いていた。 残りの麺を、なんとか無心で食べ切る。 ギョンスもペー

  • 心中の道連れ 15

    打ち合わせが終わり、俺、ジョンイン、ジュンミョン兄さん、そしてベッキョン、 は、マネージャーの都合でそのまま話し合いを行っていた部屋に待たされていた。 出された菓子を、ジョンインはもぐもぐ食べていた。つまむぐらいではあったが、ベッキョンも。 並んだふたりは、これ結構美味しい、と、最近出たばかりのグミの菓子を口に含みながら、ぼそぼそ話している。 一列に並んだ俺たちは、端に俺とベッキョンが座る格好だっ

  • 心中の道連れ 14

    ミンソク兄さんの着替える姿をベッドに横になって眺めながら、その裸とギョンスの裸の相違に、俺は思いを馳せていた。 目をつむったギョンスは、肩を出した格好で俺に髪を乾かされていた。 座ったあいつと、立った俺では、その顔はよく見られなかったが、代わりに髪に指を入れる手触りを感じ、剥き出しの首や肩や腕を見下ろしていた。 唇の上下をぴったりと合わせたまま、俺はなにも言わなかった。 言えなかった。 時折自分で

  • 心中の道連れ 13

    髪の毛の間に、細い指が入り込む感触を覚えている。 温風とともに俺の頭をベッキョンの手が撫でていた。 今、自分でしているのとはまったく違う行為だった。少なくとも俺にとっては。していることは同じなのに。 目を閉じた俺はベッキョンの手に完全に首から上を任せていた。 服は着たと言ってもタンクトップとゆるいスウェットのパンツのみで、晒した肩にたまにベッキョンの腕や肘がぶつかった。 ドライヤーをかけている間、

  • 心中の道連れ 12

    石鹸の香りが、鼻をくすぐった。 髪が湿ったままのギョンスをこんなにじっくり見るのは、久しぶりのようだった。 匂い立つようなというのはこういうことか、とどこか不思議と落ち着いて俺は思った。 そしてそれとは裏腹に、心臓が肋骨を折ろうと試みていた。 朝立ちが収まっていないこと、パジャマだとそれが視認できてしまうことが分かっていた。 夢。 変な、と形容したが、それは正しくないかもしれない。 でも、ギョンス

  • 心中の道連れ 11

    ベッドから起きるのが億劫だ。 音楽を鳴らしながら光っていた携帯電話を放り出すと、俺は体をうつ伏せにした。 枕を抱きかかえ、顔を埋める。 ……妙な夢を見た気がする。 それもついさっきまで。 頑張れば思い出せそうな気がした。 でも思い出したくなかった。 ベッドに押し付けた体の中心の出っ張った部分から、痛みを感じる。 ……シャワー浴びて……。 時間はどんどん過ぎていく。 俺はぐっとベッドに手を付き、床に

  • 心中の道連れ 10

    「俺を憐れんでよ」 「憐れむ?」 「そうだよ。こんなことを言って、こんなことをしている俺を憐れんでよ」 「……そんなこと……」 「嘘つかないでくれ」 「嘘なんか」 「俺のこと惨めだって思ってるんだろ?それをそのまま口と目に出してくれ」 「………そんな………」 ギョンスが追い詰められた顔で俺の手を掴む。揃えられた指が上から突き出した状態で、俺はその力の強さに少なからず驚く。思わず身を引き、痛いと口に

  • 心中の道連れ 9

    もう駄目だ。 ソファに座って、俺は台本を読んでいた。しかし襲いかかってくる眠気は、すでに俺から正気を取り去りかけていた。 字が泳いでどこかに行く。 ずるずると体が滑って横になってしまう。 眠い…。 眠い……。 ぞり。 びくっと、体を震わせ目を開く。 指と、人の顔。 「また寝てんのかよ」 ふはは、と緩く笑って、ベッキョンは手を離した。 眉毛をこすりながら、俺は瞬く。ベッキョンの指先の感触で、目の上が

  • 心中の道連れ 8

    「ギョンス、ギョンス」 俺は前髪が瞼にかかった子供のようなギョンスを、肩を掴んで軽く揺すった。 熟れきった果実のような唇の間から、穏やかな寝息が漏れている。 「起きろ、着いたぞ」 もう一度揺する。 左右の目がテンポをたがえて薄く開く。 「…だいじょぶか、…仕事だぞ」 俺は目尻と眉尻が下がる。 ギョンスの寝ぼけたさまは本人から年齢をなくし、俺は誰に話しかけているのかがぼやける。 「……ん」 沈んでい

  • 心中の道連れ 7

    移動中の車内は家の中の縮図のようだ。 チャニョルとベッキョンが話したり歌ったりふざけたりしているところに、セフンが自ら入ったり、引き込まれるのを拒否したり、している。 連日の撮影でくたびれ果てた俺は、そんな喧騒の中でもわけなく眠れた。 むしろいつでもどこでもどんな状況でも眠れる。 俺に限ったことではない。 俺たちみたいな仕事をしていると、そうでもしないと睡眠が足りなくなるときが、あるものだ。 正確

  • 心中の道連れ 6

    録音ルームに入ったギョンスが、眉を心持ちしかめながらプロデューサーたちの声を聞き、頷いて楽譜にメモをしている。 膨れた唇がわずかに突き出ているようだ。 録音を先に済ませた俺は、ガラスのこちら側から、歌うギョンスを見つめていた。 周りからどう思われるかを気にすることなく、まっすぐ視線の先に立つあの不思議な男をじいっと観察できるのは、とても楽しく面白い。 俺だけのために歌ってくれているような錯覚すら、

  • 心中の道連れ 5

    ごく短い歌録りが始まろうとしている。 化粧品のCMで使われる曲で、今日は俺とベッキョンだけが呼ばれていた。 ミキシングルームに座っていろいろな指示を受けながら、俺たちは楽譜を眺め、少しずつそのメロディを口ずさんだ。 歌い出しはベッキョン、その後を追って俺が続く。 中盤はハモり、俺がひとこと呟いて歌は終わる。 なかなか美しい曲で、俺はかなり気に入り、知らぬうちに笑みが浮かんでいたらしい。気付くとベッ

  • 心中の道連れ 4

    こもった、玄関の扉が閉じる音が聞こえ、俺は嘆息する。 「おかえりー」 チョコレートをつまみながら、ミンソク兄さんがダイニングルームに現れた俺に言う。ぽり、ぽり、と軽快な音が膨らんだ頬から鳴っている。湯気の立つコーヒーが、ローテーブルに置いてある。 人気のドラマにチャンネルが合わせられており、兄さんは俺を一瞥すると、すぐにテレビに目を戻した。 勉強熱心だな。 俺は、兄さんがただ好んで観賞しているので

  • 心中の道連れ 3

    今日は夜のロケ撮影がある。 夕食を済ませ、俺は撮影場所に向かうため、マネージャーの待つ車へと行くよう、玄関の大混雑の足元をよけつつ、ドアへとたどり着いた。 扉を開けようとすると、向こうから錠を開ける音がし、俺は体を引いた。 薄い顔より更に色味とコントラストを抜いたような、ベッキョンのそれが隙間から覗く。 汗の匂いが俺の鼻を抜けた。 「…ただいまあ」 倒れ込むようにベッキョンは中に入り、俺の肩に首を

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