• 「日本文学史早わかり」丸谷才一 講談社文庫

    この本は、受験に役立つ本ではありません。日本文学の脊髄を作り上げてきた文学を和歌に見、その歴史伝統について論じた本です。著者の着眼は正鵠を射ていると言っていいでしょう。著者の丸谷才一は、いままで、だれも気がつかなかったことに気がつくのが得意な人で、この本もそうした著者ならではの眼光が光っています。一読して、日本文学の急所の在りどころを明らかにしてみせます。丸谷ならではの独創性に富んだ日本文学史です

  • 「横しぐれ」丸谷才一 講談社学芸文庫

    歌人種田山頭火を描いたフィクションです。わたしの好みからいくと丸谷の中でもっともよい小説ではないかと思われます。「横しぐれ」という一語を文学史的に繙いていって、旅先で偶然出会った山頭火に「なるほど、これで十分なわけですな」と言わせます。「横時雨」はこの一語で成立している「うた」で、古来から歌の師匠たちはこの言葉を和歌に使ってはならぬと教えてきたといいます。そうして、山頭火の流浪の人生を思い、禁忌に

  • 「樹影譚」丸谷才一 文春文庫

    丸谷才一は先年亡くなりましたが、現代小説家として、通好みの小説ファンが多かった人です。「小説家としては学問があり過ぎ、学者としては想像力があり過ぎる」と言われたほど博識な小説家でした。この小説はまだ女を知らない青年と可憐な生娘との初体験がテーマです。うぶ同士の若い男女の交渉はよく書かれていて、微笑ましくすら感じられます。フレッシュな性愛を描いた小説です。

  • 「日本語相談」大野晋ほか 朝日新聞社

    大野晋、大岡信、丸谷才一、井上ひさしといった日本語の達人たちが、雑誌読者の日本語についての質問に、それぞれの個性が丁寧に応えた問答集です。「なす」の本来の正確な言い方は「なすび」、総理大臣が引き続き政権を担当するときなどの「続投」という言葉は野球用語、「結果論」という言葉も野球用語等々。われわれが、普段何気なく使っている日本語について、新しく思い掛けない発見にみちびいてくれる本です。全四巻あります

  • 「ボートの三人男」ジェローム・K・ジェローム 中公文庫

    イギリスのユーモア小説です。少しばかり読み辛い、丸谷才一による翻訳文ですが、イギリスならではの野性的なユーモアや皮肉が、随所に散りばめられたじつに愉快な本です。物語は、気鬱に塞いだ男が家庭医学書を読み耽り、自分はたった一つの病気を除いて、あらゆる病気に罹ってしまったと思い込む所から始まります。世にも暗い顔をして医者を訪れ、渡された処方箋には「気晴らしをせよ」と書かれていました。三人の抱腹絶倒の旅が

  • 「犬だって散歩する」丸谷才一 講談社文庫

    日本の現代作家丸谷才一の軽快なエッセーです。これはわたしの好みも入りますが、この人の文章は小説よりも、こうしたエッセーのように軽妙なものの方が、生き生きとした精彩が感じられるように思えてなりません。たいへん博学な人で、博識を元にした知的遊戯の達人と言っていいかもしれません。それでいて、ペダンチックな臭みは少しも感じさせない人で、知識がこの人の中で充分に熟れているからでしょう。この書は、その丸谷才一