『恐怖の大王』来たる
(掌編) 1週間後に『恐怖の大王』が外宇宙から飛来することが判明した。各国首脳は侃侃諤諤の議論をしたものの決裂した。誰ががヤケクソになって核ミサイル発射ボタンを押し、そのまま全面核戦争となり、地球は滅亡した。 予定の日に『恐怖の大王』は来寇したが、何もすることがないことに気づき、そのまま立ち去ってい... 続きをみる
(掌編) 1週間後に『恐怖の大王』が外宇宙から飛来することが判明した。各国首脳は侃侃諤諤の議論をしたものの決裂した。誰ががヤケクソになって核ミサイル発射ボタンを押し、そのまま全面核戦争となり、地球は滅亡した。 予定の日に『恐怖の大王』は来寇したが、何もすることがないことに気づき、そのまま立ち去ってい... 続きをみる
緑の芝生におおいかぶさるように海面が西日を受けて反射し、奴は縁側の籐椅子に横たわって、 小説に読み疲れてうとうとと軽い眠りにはいっていた。 女中は夕飯のしたくに買物に出かけ、妻は外出からまだ帰っていない。小学校三年生になる一人娘が、純白の手のり文鳥に水を与えていた。 眠りの中を純白の文鳥が羽音をたて... 続きをみる
桜の花が、風に散る頃になると思い出す。 峠を越えて、海の見える僻地の教師として生活した時のことを。 僻地に三年いれば出身地の学校へ帰すという約束で、健一はそれを信じ、 三年間を過ごし、四年目が過ぎ、五年の春を迎えてしまつた。 僻地では、年度当初に、僻地振興大会を持つ、新卒教師が一名、 三年以上の僻地... 続きをみる
「理想を掲げないことには政治の道へは進めない。しかし、現実的に生きなければ票は集まらない。掲げたほとんどの理想は実現しない。だから理想なのかもね。」 福岡政治(まさはる)は、話し始めた。 今日は、新井市長の要請を受けて、市長秘書の長井恵介君の次期県議選立候補についての下準備の会合であった。 市長の息... 続きをみる
「今でも私は信じられないんだよ。」 「先生、ごめんなさい。自分でもどうしてこうなったのか分からないんです。」 「学生時代からずっと君を見守っていた。真面目で、がんばり屋で、明るく正義感の強い自慢の生徒だった。そのままの君が教師になって君の成長を一番の楽しみにしていた。」 「ごめんなさい。不正なお金を... 続きをみる
「おばさん、いい養子をもろうたのう」 「どこに、ちがうちがう、ありゃあ下宿人じゃ」 「下宿はじめたんか」 「上から順にみんな外に出っていって、部屋があいちしもうて、もったいねえじゃねえ か」 「そりゃそうじゃ。だけんど時間の問題じゃのう」 「なにが」 「なにがちゅうて、わかるじゃろうが」 「そうじゃ... 続きをみる
勝は、そっと空気銃を握ってみた。鉄の重たい冷たさが指先から骨にしみる。外は雪がちらつき南の街にしては珍しく冬らしい一日であった。 裏山の登り口には5年生になる弟の賢を待たせてある。家族の者たちは仕事で誰もいない。 空気銃を持ち出すのなら今だ。ポケットの中では空気銃の弾がじゃらじゃらと気ぜわしく音を立... 続きをみる
月下美人 季節の花300より 花言葉「はかない美」「はかない恋」「あでやかな美人」 彼女はいつものように彼の帰りを迎えるために駅の西口、向かって左の入り口の端の方に立っていた。出札口から出てくる勤め人の中に彼の姿を求めていた。 出札口から出てくる客がまばらになり、一段落ついたけれども彼の姿は現れなか... 続きをみる
季節の花300より コーヒーの実 世の中には自分にそっくりの人が3人はいるものだとよく言われているが、まことその通りである。 「電車でお会いしましたですね。今、お帰りですか。」 「はい。」 「あなた、ほれ、ほれ、名前が出てこない。あの女優さん・・・」 「あの方ですね。」 「そう、あの方です。よく言わ... 続きをみる
「去る者は日々に疎し」と言われるが、学生時代までの友情もお互いに結婚し、家庭ができ子ができ、職場がちがうと、もうそれは回想の中でしか感じ取ることのできない凍結したものになってしまうことが多い。 彼も私も、家はそれほど裕富ではなく、かといって他人が目をふさぐ程の貧乏でもなかった。昭和初期における下級官... 続きをみる
歳をとってくると時々夢を見ていると意識して夢を見、夢ではないと意識しながら夢を見ている時がある。夢と現実が夢の中で交差する。何とも不思議な体験をすることがある。 ある日、ばったりと、仏さまにおあいいたしました。 絵や彫刻にある仏さまのお姿とすこし違っていましたので、最初の数分間は判断がつきませんでし... 続きをみる
「吉」の字を秀吉より頂く(かたいみな) 大友宗麟の嫡子、吉統(よしむね)は、吃りであった。 吉統が吃り始めたのは、ちょうど満二才の誕生日を過ぎた春、一五六〇(永禄三年)の桜の花が春の嵐に舞い散る心の痛む一日であった。 この日、吉統は強い風のために庭に出ることもできず、縁側で供の女と母と三人で遊んでい... 続きをみる
「もしもし、もしもし・・・」 妻はちょっと怪訝な顔をして夕食の席に戻ると残ったご飯の上に塩昆布と梅干を一個のせて濃茶をかけて流し込んだ。 夫の啓一は食事を終えて娘と将棋盤に向いあって駒を並べ始めた。 「あなた、女の人の声よ。」 「どうかしたのか。」 「切れたのよ。」 「まちがい電話だろう。」 娘は角... 続きをみる
「ヨッチャン」 「タックン」 天神渡辺通りでの35年ぶりの再会であった。 「ヨッチャン」「タックン」とお互いの名前を呼びあっただけで、二人は小学生の昔まで引き戻された。 手を取り合った瞬間、熱いものがこみあげてお互いの顔が霞んでぼやけて夢の中の出会いではないかと思われた。 藤村芳雄 53歳、野村隆史... 続きをみる
K 町 役 場 ここは大分県の南の端、いわしと芋の産地K町である。K町におろやんとしめやんという実に仲のよい二人のおばあさんがいた。どうしてこの二人、仲がよいかというと、ちょっとしたわけがあった。 おろやんもしめやんも、朝から晩まで、孫の守りをして、町中を歩きまわって一日を過ごしていた。おまけに、二... 続きをみる
安男は無神論者であった。 今年3月に満60歳の定年退職をして、悠々自適の年金生活に入った。三歳年下の妻、哲子もいたって健康で、長男夫婦に二人の孫、娘夫婦に一人の孫、計三人の孫に恵まれて順風満帆の生活を送っていた。 安男は根っからの無神論者で神も仏もその存在を信じていなかった。神社に行ってもお寺に行っ... 続きをみる
コスモス 季節の花300より 花言葉 「乙女の真心」「調和」「謙虚」 昨年の秋だった。油ぎった夏からからりとした秋風が吹く頃に毎年開催されるアジア心理学研究会に参加した。 九州在住の心理学に興味と関心のある成人が集まって、日常のケース研究を報告しあう極く平凡な会である。 別に、会則らしい
サラーリーマンにとって土曜日の夜なんざあ、まさに天国ですなあ。近頃は週休二日の所が多くなって、金曜日がキンキンキラキラ金曜日と言って、土曜日から金曜日に天国が移ったそうですが。 まあどちらにしても、それぞれが好きなことに生き甲斐を感じることで、結構なことです。 趣味の多様化、個性化などと申しまして、... 続きをみる
12月24日、クリスマスイブの朝であった。 今年、一番の寒さとなり、湯の町にはめずらしく粉雪がちらつき、1945年(昭和20年)の終戦の年は日本全土が厳しい生活を強いられていた。 なんといっても、働き口がない。駅西口、当時は裏駅と呼び、東口の海に面した通りのほうを表駅と呼んでいた。 裏駅から山手の方... 続きをみる
特急の寝台車の中で着物のよく似合うご婦人と同席した。 珍しく寝台車は空いていてゆったりとした気分でそれでいて少しだけ華やいで心臓の動機が聞こえてくるような旅ができそうな予感がした。 駅に着いたとき婦人は退屈そうに車窓の夜景に自分の姿を重ねて髪を手で軽くなでた。私は何気なしに週刊誌より眼をあげて婦人を... 続きをみる
無花果 季節の花300より 「死にましたってなあ。よんべこそ、わけえしに混じって、酒を飲んじょったちゅうがやっぱり心臓麻痺か何んかで、ほう、脳充血ですか、誰れがいつころっといくかわからんもんてすなあ」 せまい土地のK町では、一人の商人の急死が、NHKの臨時ニュースよりも早く、各家庭に流され、夜のでき... 続きをみる
梅 季節の花300より 花言葉は「高潔」「忠実」 「おかあさん、もう帰るの」 恵美は残念そうにつぶやくのがくせになってしまった。 「そうそうお前のおつき合いもできないよ。早いもんだね。お前が結婚してもう二ヶ月が経ったよ、頑張らなきゃあ」 満更でもない微笑を浮べて、母は恵美を元気づける。外国航路の舟乗... 続きをみる
カエデ 季節の花300より 花言葉 「大切な思い出」「美しい変化」「遠慮」 「もう焼けたんじゃないんか。焼けたら一番にばあちゃんに持っていかにゃあ」 長男のはじめは、酒の燗をつけながら、妻の滝子に言った。 村の秋祭りの日、おかよばあさんの家では子供たちが全員集まり、ばあさんの取ってきたマッタケ料理で... 続きをみる
大分合同新聞掲載の挿絵より 初秋の風に誘われて、別府の郊外を歩いていた時のことである。 白髪の白衣を身につけた一見医師風の老人が、松林の中から姿を現し、私に声をかけた。 「散歩ですかな、人の通らない生まれたばかりの風景の中を歩くのは好い気もちですな」 「ええ、少し胃腸を悪くしたもんですから、こうやっ... 続きをみる
大分合同新聞掲載の挿絵より 佐野啓一、四十歳。東京のN大学教育学部心理学科を卒業して、現在は地方大学の講師。連続する雨の休日にいささかうんざりし、望遠鏡のレンズを磨きながら、フラストレーションの蓄積にイライラしていた。 ゆうべの天気予報では、きょうは午後から曇り、ところによっては晴れ間が出るとか。啓... 続きをみる
大分合同新聞投稿の挿絵より 彼、1931年(昭和6年)1月1日生まれ。当年40歳。東京の大学、教育心理学部を卒業して、地方大学の講師をしている。 学生時代は行動的で雄弁家で人付き合いも大変評判のいい青年であったが、あまり学問をしたせいか、無口になり、行動力がなくなり、人間嫌いになってしまった。 かと... 続きをみる
冷たい冬の星座が、ちかちかと輝いていた。 空を仰ぐのも久し振りだ。振り返ると、街路樹の彼方にオリオンが澄んで見える。突然、進の背後から、けたたましいサイレンの耳をつんざく音が追いかけてきた。酒に酔った頭は一瞬混乱し、そして、異様に冴えてきた。もう忘れてしまっていたはずの二十数年前の記憶が体の中を駆け... 続きをみる
国に国境があり、県に県境があるように、血縁の親子の中にも越すに越されぬ境がある。 このなみだ橋は、町と村との境を流れる谷川にかけられている幅三メートル、長さ五メートルほどのごく小さい橋である。小さな橋ではあるが村に住む人々にとっては、自分たちの世界と他の世界とを区別する指標でもあった。 村人は旅立つ... 続きをみる
大分合同新聞掲載の挿絵より 昨日の寒さはうそのように、今日は春めいた風のない日差しが窓から差し込んでいた。机の上には、首を高く突き出したシクラメンの花が四つ咲いていた。 社員は昼食に、また、昼休みのスポーツにと部屋を出払って、一人健吉だけが妻の手作りの弁当を終わり、熱い茶をすすっていた。 「うん、後... 続きをみる
大分合同新聞掲載のさし絵より ボラ、チヌ、イサキ、ハマチ、アジなどが釣れはじめると、この僻南の寒村も釣り人たちでにぎわい始める。特に土曜日の午後は泊まり込みの客で満員である。 それを当て込んでか、この地に、ちょっとデラックスな金持ちの退屈しのぎの片棒をかつぐような海辺のホテルが建った。 透き通る紺碧... 続きをみる
安政五年(一八五八年)佐野島大火三十四戸焼失。その年、島民は生活に必死であった。働ける者はみな働いた。漁に畑仕事にと。 源造も夜のあけぬうちから、裏山の段々畑で芋のとこ作リに汗をかき、太平洋の黒い海原から昇る朝日を拝んで一息いれた。 「やせた土地には、さつま芋が一番。」 源造は一人言をいいながら鍬を... 続きをみる
5月の連休に喜寿を祝う同窓会に参加した。 古希の同窓会が最後の同窓会になると思っていたのに、あれから7年過ぎて仲良し3人組が元気で喜寿の同窓会を迎えた。 今回の同窓会は皆の胸の内に最後かもしれないという思いがよぎった。 小学校から高等学校まで同級生として柔道や陸上を共にしてきた。卒業しても林 和生を... 続きをみる
木々の葉も色変わり、公園のそこここに落葉の吹きだまりが、音をたて移動し、赤く咲き残るサルビアの花にも、さみしさと人恋しさを感じる季節。 公職を退いて、早、半年が過ぎ、今では唯一の日課が、こうやって、夕食前の一時、郊外を散策し、公園のベンチで一服することになってしまった。 現職当時は、退職して自由にな... 続きをみる
《書く前の心がけ》 出来るだけ単純に、プレーンに書こうと意識しようと思います。 テレビや漫画などのフィクションでいつか見たようなことが起こった。つまり、ぼくのよく利用する大通りに、通り魔が出現したのである。 通り魔は男で、彼はどこかの飲食店から持ち出してきたかのような、刀身の長い包丁を、捕まえた女性... 続きをみる
距離はいつも50センチメートルだった。ぼくの昔の彼女、しーちゃんとのあいだに空いた、いつもの距離は、そう、50センチ。 もう別れてしまったけど、今でもよく当時のことは覚えている。ぼくが彼女と付き合っていた、およそ二十年前の、まだ高校生だった頃のあの日々。なんてったって、それがぼくにとって唯一の、かけ... 続きをみる
或る大きな球体、ボールやメロンのようにまんまるで親しみやすく、それでいてどこか神秘的な縁遠さのある、その周りの道を、ぼくは随分長い時間さまよっている。 道は複雑に入り組んでいて、一本の道は何本もの似たような枝道に分岐し、また、道と道の間は青々と茂る木々に遮られて遠くを見渡すことが出来ず、その様はまる... 続きをみる