ショートショートのムラゴンブログ

  • 人魚たち

    今は昔、延喜の御代に筑後の国に賤しき漁師ありけり。 沖に出でけるに、人魚の、身の上は娘にて身の下魚なるが網にかかりければ、開きて一夜干しにしけり。 国司に奉らんとすれども箱に納まらず、身を二つに切り分けて二つの箱に納めにけり。 国司、箱開くることあたはざりけり。 帰宅すると、妻がテレビを見ている。 ... 続きをみる

  • やっぱ兄弟だなぁ

    搭乗員一名の小型宇宙船は思ったとおり狭かった。 四面の壁には計器がずらりと並び、小さな窓があるのみ。 宇宙船一体型のコンピュータが船内のコンディションを報告していくのを聞き流す。 やがて宇宙分岐ステーションとのジョイントが解除される振動が伝わってきた。いよいよ出発か。 数週間前、恰幅のいい長官がカイ... 続きをみる

  • 70億のリアリティ

    しょの1 「世界人口、70億人だってさ」 「70億?数が多すぎてまったくイメージできないなぁ」 「よく犯罪ドラマに出てくるジュラルミンケース。あれひとつに万札詰め込むと1億4千万。つまりジュラルミンケース50個分だ」 「ここで『なるほどぉ』なんて言うのはやっぱり人としていかがなものかなぁ」 しょの2... 続きをみる

  • つうのおんがえし

    アッ、女の人が倒れてるじゃありませんか。 息がありません。心臓も止まってる。こいつはヤバイ! 人工呼吸&心臓マッサージ開始です。 そうそう、心臓マッサージは『アンパンマンマーチ』を歌いながら。 ♪そ~だ、うれしいんだ、いっきるよっろっこっび~♪ ♪た~とえ、ムネのきずが、い~たんでっもっ~♪ 「ウ、... 続きをみる

  • 『猿の惑星』リミックス

    よ~し、もう猿たち追ってこないな。ひと安心、ひと安心。 まったく大変な目に遭ったもんだ。猿の惑星に来ちまうなんてさぁ。 恒星間宇宙船で数百光年離れたオリオン座ベテルギウスに訪れたものの、とある惑星の湖に不時着。 たまたま地球と同じ大気構成だったからよかったけどさぁ。 ここじゃ猿がいちばん偉くて下等な... 続きをみる

  • サンマのアジ

    イヤ~秋ですね~。 保育園の壁面デザインも秋一色、モミジやイチョウで鮮やかに飾られています。 「えっと、えっと、モモでしょ。それからブドウ!」 「そうですね。クダモノもおいしいわね。じゃ、トラビシくん。トラビシくんの好きなのはなんですか?」 先生がトラビシくんにもたずねました。 「んっとぉ、ボクはサ... 続きをみる

  • 奄美網目脈真逆蛇

    あなた、ヘビ、嫌いですか? そうですか。嫌いですか、やっぱり。 あのね、ボク、ヘビなんですよ。あなたの嫌いなヘビ。 わかります?生まれながらに忌み嫌われる気分。 つくづくヘビがイヤになりましてね。 神様にお願いすることにしたんですよ。 「神様ぁ、ヘビの神様ぁ」 「ニョロロロロ~ン、わしを呼んだかな?... 続きをみる

  • 無限遡及

    ああ、そうそう、そういえば・・・ 事務所入口の引き戸を叩く音がした。 「おい、おるんやろ。おんのはわかっとるんや。はよ出くさらんかいっ」 蹴る音が加わる。 「や、やめといて。今、開けますさかい」 引き戸の錠を開けると、ガラの悪い男が二人、事務所に乗り込んできた。 若いアンチャンが顔を目の前に近づけて... 続きをみる

  • Switch

    刑務官寄合室で休暇申請に記入していると、野崎さんが手元をニヤニヤ見ている。 左利きのボクが、ペン先を押し進めるように文字を書くのが珍しいらしい。 「仕事はきついけど、特別休暇を思えば悪くないな。俺は女房の買い物につきあわされるだけだが」 明日、刑が執行される。死刑執行に携わった刑務官には二日の特別休... 続きをみる

  • オオカミ男の夢

    母親の胎内にいる。 目が覚める。ここがオオカミの腹の中だと気がつく。 柔らかな森でまどろむうちに食われちまったらしい。どうりで体の中の夢を見たわけだ。 さて、どうしたものか。 思案しようと腕を組むが、意外に居心地がよいのでやめる。 温度具合もいい、粘液まみれの肉壁も全身になじむ。服を脱ぎ捨てて全裸に... 続きをみる

  • 漸次、減速

    運動神経のいいクラスメートが羨ましかった。体育の時間も部活の時間もみんなの中心になれて。 それで、わたしは神様にお願いした。もっと速く動けるようにしてくださいって。 そしたらみんなともっと楽しめるんじゃないか?認められるんじゃないか? 「ね、今日、なんだか早口だね」 朝の通学電車の中、マリが笑った。... 続きをみる

  • 地球外生命体接近す

    卓袱台の上に湯呑みと朝刊。朝刊を開くと、惑星探査のニュースで紙面は埋めつくされていた。 テレビをつけても惑星探査船のことばかり。どのチャンネルも興奮した口調で代り映えしない情報を繰り返す。 「あなた、ジョイスに餌をあげてくださいな」 野菜を刻む音がやんで、台所から妻の声が聞こえてきた。 うむ。生返事... 続きをみる

  • 曼珠沙華

    秋晴れの朝、カーンと澄んだ空気を吸い込んだ。 つい先々週、台風だなんだと騒いでいたのに、 見渡すかぎり秋色だ。。 職場に着くとまもなく、朝のミーティングが始まった。 「おはようございます」 快活な上司の声に顔を上げ、思わずアッと声をもらした。 「どうした?」 「い、いえ」 同僚たちが怪訝そうにボクを... 続きをみる

  • 愛することの一考察

    アパートの階段下、美紗が待っていた。 「何してるんだ。風邪ひくぞ」 タカシがコートをかけてやると美紗が鼻を鳴らした。 「タカシが遠くに行ってしまいそうで。もう二度と会えなくなっちゃいそうで」 「何言ってんだよ。ボクはずっとここにいる。ここの暮らしが好きなんだ」 暮らし、だけ?美紗が顔を上げる。涙でグ... 続きをみる

  • 自動販売機進化論

    ああ、朝すっかり寒くなってきたなぁ。もう一枚羽織って外出すればよかった。 路地をふと見ると、おや珍しい、自動販売機があるじゃないか。 缶コーヒーにコーラにスポーツ飲料にお茶。昔ながらの清涼飲料水の自販機。 お祖父ちゃんが見たら懐かしがるだろうなぁ。 硬貨を入れて、ボタンを選択する。 ゴトゴト、ゴトン... 続きをみる

  • # ショートショート
  • 変わんないヤツ

    中学校の同窓会でカンヤに会った。 二枚目だった幹也は学年のモテ男だった。三十年経った今でも結構カッコイイ。 白髪まじりだが髪もバッチリ決めてるし、体形もほとんど変わってない。 「久しぶり!すっかりオヤジになっちまって!」 カンヤがニヤニヤ笑ってボクのビール腹を見下ろす。わかってるって。仕方ないじゃな... 続きをみる

  • リクルート

    今日は大切な就職試験の日だ。 就活スーツに身を包み、時間に余裕をもって颯爽と家を出た。 「お~い、助けてくれやぁ~」 おっと、家から出た途端、側溝に脱輪した軽トラが。運転していた爺さんがおろおろしている。 仕方がない。集まってきた近所の人と力を合わせて軽トラを押しあげた。 時計を見ると、まだまだ余裕... 続きをみる

  • 惚れどめ

    ドアベルの音。西日に焼けた漢方薬の陳列棚の奥からヤギのような顔立ちの店主が顔を上げた。 「いらっしゃいませ。えっと、前に見えられましたね、お客さん。どうです、効きましたかな?」 「ええ。ありがとうございます」 「そいつはよかった。で、今日いらっしゃったのは?」 「実はその、少々彼女が疎ましくなってき... 続きをみる

  • 買ってください

    「あら?お引っ越しのあいさつっておっしゃったのに、あなた、ご商売の方でしょ?」 玄関ドアを開いたマダムが不機嫌な表情にみるみる変わる。 「ええ。先週からこちらの町で営業中の布団の西八です。よろしくお願いします」 「お布団?間に合ってますわ」 「そうおっしゃらず。わたくしども、販売のみならず、クリーニ... 続きをみる

  • 死刑囚6157号

    地下1階でエレベーターを降りる。 映画館のホール入口のような重々しい観音開き扉が開かれると、紫の絨毯の広い部屋があった。 正面の祭壇には小さな阿弥陀如来像が据えられている。 刑務官が6157号を支えるようにして部屋の奥へと連行する。右側は壁面ではなくアコーディオンカーテンで仕切られている。 この部屋... 続きをみる

  • ナントカ魔神

    ただひとり、無人島に漂着してもう何日になるでしょう。ああ、腹がへったなぁ。 容赦なく照りつける日ざしの中、なにか流れ着いていないかと岩だらけの磯辺をフラフラ歩いていました。 おや?何やら光るモノがあります。近づいてみるとガラスの瓶です。お酒の一升瓶。 抱え上げてみると、残念、空瓶です。キッチリ蓋が閉... 続きをみる

  • 片付け上手

    「へ~片付いてるなぁ、おまえの部屋」 内藤のキレイ好きは知っていたが、まさかここまでとは。 壁面全体が引き戸になっており、棚の奥は見えない。 部屋には机とパソコン、背の高いドラセナの鉢。それだけ。 小物は棚の中なんだろう、一切見当たらない。モデルルームのように生活臭がない。 「片づけが趣味みたいなも... 続きをみる

  • 贋札?

    「博士、ハイ、10万円」 「すまないなぁ。2、4、6、確かに10万円。ありがたく借りるよ」 「長年ロボット開発に没頭しているとは聞いていましたが、何です?この装置?」 「うん、その、ロボットだよ」 「ロボット?このコピー機のバケモノみたいなのが?人間っぽくないなぁ」 「ハハハ、キミ、それは狭義のロボ... 続きをみる

  • 叔父の万年筆

    先日、突然、叔父が亡くなった。 叔父宅に焼香を上げにうかがうと、ひとり残された叔母が喜んでくれた。 「どうしても急ぎの用で帰ることができなくて。大変でしたね、叔父さん」 叔父夫婦は五十代半ば、盆に会ったときはあんなに元気だったのに。正直、彼らみたいな夫婦なら結婚もと憧れるほどのオシドリ夫婦だった。 ... 続きをみる

  • 信じる者は掬われる

    おい、なんだなんだ、キミ、その恰好は。 赤白のストライプの特注ジャケット?・・・ちょっと派手すぎやしないかね。 それにそのとんがり帽子・・・う~む、どう見ても「くいだおれ太郎」じゃないか。 え?風水で?赤と白がラッキーカラー?いやだからといってその服はないだろう。 朝のテレビの星占いコーナーで、ラッ... 続きをみる

  • 不死身の薬

    ヨアン・ナマラスカは死ぬのが怖かった。 子供の頃から死を恐れ憂えてきた。三十歳になった今、その思いはますます募り、怖くて怖くて死んじゃいそうだった。 そんなある日、行きつけのパブで、酩酊した、とある研究所の助手から耳寄りな情報を仕入れた。 「おい、本当か?今、不死身の研究をしているって言ったよな?」... 続きをみる

  • どうして子どもは恐竜が好きなのか?

    「わぁい、恐竜だ!本物みたいだ!」 ミンゲルが箱から恐竜のミニチュアを取り出して大喜びです。 「お兄ちゃん、それ、トリケラトプスだよね?」 妹のジュリコも目を丸くしています。 「そうさ。それからこれがステゴザウルス。それからこっちはティラノサウルス・レックスだ」 子どもたちが大はしゃぎしている姿を見... 続きをみる

  • Yの喜劇

    ニューヨークの港でぶよぶよの溺死体が発見された。ホトケの名はヨーク・ハッター。 富豪にして化学実験を趣味としている男だった。 「完璧に正常な精神状態において私は自殺する」という謎めいた遺書を残して。 誰もが自殺の原因は、悪妻エミリー・ハッターだと勘ぐった。富豪の娘エミリーにヨークはまったく頭が上がら... 続きをみる

  • しあわせの青い星

    未来。 ある日、チルチルとミチルの兄妹の前に地球連邦長官が現れて、『しあわせの青い星』の探索を依頼しました。 「どうしてボクたちにこの任務を?」 「マザーコンピュータが幸薄い君たちを選んだのぢゃ。『しあわせの青い星』を見つければ幸せになれるかもぢゃよ」 衣食住すべて支給されるとあっては、二人に断る理... 続きをみる

  • たいていはBARにいる

    場末のBAR、カウンタ席の隅でバーボンを飲んでいると、背後のカウベルが鳴った。 ボク以外に客はいなかったが、男は迷わずボクの隣の席に収まった。 黒のタートルネックに水晶石のペンダント、白髪に白髭。かつてTVでもよく見かけた著名な占い師アンドロメダ土石川だ。 「ピエール万田林さん、だね?」 なぜ聞く?... 続きをみる

  • 今宵、中秋の名月に

    近所のアトリエで制作に熱中していたら、いつのまにか彼女と二人きりになっていた。 時計を見るともう夜中だ。 コーヒーはすっかり冷めていた。窓から月明かりが皓々と射し込んでいる。 夜のアトリエに高校生の男女二人だけ。来月の展覧会や好きな画家の話など交わしたが、声が上擦ったり息がつまったりお互いにドキドキ... 続きをみる

  • ダイヤモンド

    チャーターした小型機の客室。妻は不安そうに私にしがみつく。 私は操縦士の背中に問う。 「それで?どうなんだ?残りの燃料で戻れるのか?」 操縦士が首を横に振った。 「できるだけ機体を軽くしないと無理です。燃料を温存しなければ。荷物はすべて投棄してください」 命には代えられない。低空飛行する小型機のハッ... 続きをみる

  • へ~んし~ん

    朝、目を覚ますとムシになっていた。 これは一大事と思ったが、 家族全員ムシになっていたし、町中みんなムシ。 おや、どのムシが家族なんだ? そもそも、自分はどのムシだっけ? ムシすべからざるムシの状況に、我々はムシシと笑った。 【虫、蟲、蒸し、無視、無私、無死、無始、夢死・・・好きなムシを入れちゃって... 続きをみる

  • しげるJAPAN

    お尻の大きなオバチャンが椅子とりゲームをするみたいに、狭い港でフェリーはぐるりと向きを変えて船尾をモゾモゾと船着場に差し入れました。船内にマイカーを停めて、車外に出ると、ディーゼル油と錆とヨードの混じったフェリー独特の生暖かい空気がベッタリ肌に貼り付きます。 デッキ客室に入ると、常連さんばかりです。... 続きをみる

  • 8時15分

    「どうでしょう?大丈夫でしょうか?」 付き添いの男が神妙に医師に問いかけた。 町医者が老人の腕をとって脈をうかがう。 白生地の寝間着で横たわる老人は汗ばみ、白い口髭の間からもれる息も荒い。 「なにぶんお年ですからなぁ」 付き添いの男たちが心配気に顔を見合わせた。 うう・・・ 老人の顔が苦痛で歪み、額... 続きをみる

  • プルプル

    ファミレスで携帯を弄ってたら、目の前に美女が座りました。 ワンピースもツバ広の帽子もロングの手袋も全部真っ白、スタイル抜群、まるでモデルさんです。 もちろん彼女に見覚えなんてありません。彼女、肉感的な唇で囁きました。 「プルプル」 え?プルプル?なんだ、それ?彼女は黙ったまま蠱惑的な瞳でボクを見つめ... 続きをみる

  • お寺だって楽じゃない

    盆休み、中学の同窓会に出席すると、珍しく斉藤が来ていた。 「おい、久しぶりだなぁ。戻ってきてたんなら連絡くらいくれてもいいじゃないか」 斉藤が頭を掻いた。 「いやぁ実は俺、中村になるんだよ、来月」 中村?驚いていると、同じテーブルに座っていた中村鈴子がウフフと笑った。え?そういうこと? 「鈴子ちゃん... 続きをみる

  • 珈琲おかわり

    出会いは一杯の珈琲からでした。 ボクはいつものように昼時、親友のカールとザルツブルクのカフェで待ち合わせていたのです。 珈琲を注文してから、財布を忘れたことに気がつきました。 今日のところはカールに払ってもらおう、そう決め込んでいたものの、待てど暮らせど現れません。 小一時間もして、メールが入りまし... 続きをみる

  • 発進、未来ロボ

    東京湾に隕石が墜落、落下地点の海水が沸騰したようにゴボゴボ泡立ち、虹色の宇宙怪獣が出現した。 自衛隊による砲撃も蚊ほどの効果もない。 米軍はオトモダチ作戦2を展開したものの、宇宙怪獣が体に悪そうななんかを吐いているので早々に引き揚げた。 ついに政府は秘密裡に開発していた○○ミサイルを公表、宇宙怪獣を... 続きをみる

  • 音声認識型金庫錠

    近所のビル地下室からガッシガッシと掘り進んで、苦節3年、ついに銀行の地下金庫室まで開通した。 深夜、コンクリートの壁を打ち砕いて降り立ったこの場所は、大黒屋銀行本店、地下金庫室前フロア。 え?金庫の中に開通しといたら、金庫錠を開ける手間が省けるんじゃないかって? この巨大地下金庫はね、厚さ20センチ... 続きをみる

  • Butterfly

    空飛ぶ宝石の異名をもつ幻の蝶を追って、ボクは現地の案内人マリオとともにピックーロの森を彷徨っていた。 その蝶、アグリアスの羽根は黒地に鮮やかな赤、青、緑、黄色が飾られている。アマゾン流域にさまざまな亜種が棲息し、一羽として同じ柄がないと言われる。稀少なるがゆえにコレクターの間で数万円、時に10万円を... 続きをみる

  • のっぺらぼう

    肩を震わせていた町娘の背中に声をかけると、ゆっくりと振り返りました。 「ひぃやああああ!」 「へい、らっしゃい」 ほうほうの体でおでんの屋台にかけこみました。グツグツ煮えた湯気の向こう、大将が背中を向けて洗い物をしています。 「で、出たんだよ!角の用水桶んとこで。ア、アレが」 「アレって?」 「アレ... 続きをみる

  • ウンポコ族のシビヤさん

    (久米明ナレーション風) 『ツブツブコーン自然保護区には、ウンポコ族という、千年前からの生活スタイルを守り続けている部族が住んでいる。 彼らの夏の朝は早い。この時期ならではのごちそうの準備のためである。 夜も明けぬ早朝、彼らは家族総出で森林に出かけ、地上に出てきたばかりのセミを袋一杯に集める。 村に... 続きをみる

  • 8月31日

    8月31日。 西日本の空を巨大な円盤が覆い尽くした。 事態が飲み込めぬまま人々が見上げていると、突然、円盤底面から無数のキューブが放たれた。椎茸が胞子を撒き散らすように。 そして、キューブは自在に舞い飛び、人々を襲い始めたのだ。 「侵略だ!」 叫び、逃げまどう人々。目にも止まらぬ速さで容赦なく人を飲... 続きをみる

  • 養殖うなぎ

    冷え冷えのオシボリで顔をゴシゴシ、首の汗を拭った。 「お待たせしました」 店員が鰻重をテーブルに置く。 フタを開けると、湯気とともに蒲焼の芳しい香りが鼻をくすぐった。 「たまらんなぁ、コレ」 正面に座った同僚が早速鰻にかぶりついた。ボクは肝吸いを啜って喉を潤してから蒲焼にとりかかる。 確かに美味い。... 続きをみる

  • 少年、シュリーマン

    小学校四年生のとき。 掃除の時間に藤棚の周りを竹ぼうきで掃いていたら、土の中から平らな石が現れた。 アスファルトみたいな濃い石が貼り合わせてある。 土を払いのけていくと、それは舗道だった。 そう言えば確か小学校が建つ前、別の学校が建っていたと校長先生が言ってたっけ。 忘れ去られた遺跡をボクが見つけた... 続きをみる

  • 【twitterショート140字×3】自転車三台

    自転車通勤の途上、ふと気になった。朝の出勤時間と、夕方の帰宅時間を比べると、明らかに朝の所要時間が短い。同じ速度でペダルを漕いでるし、上り坂も下り坂も等しい度合いである。なぜだ?なぜなんだ?あ、そうか!職場は自宅の西にあるじゃないか。地球の自転速度を計算に入れなければ。 さらに明晰な頭脳が仮説を立て... 続きをみる

  • 生まれ変わったみたい

    定時の見回りが終わり刑務官の足音が遠ざかると、オレはシーツを丸めてオレのダミーを作った。 そしてリタ・ヘイワースのお気に入りのポスターをめくる。毎日コツコツとスプーンで削ってついに開通した地下トンネルが現れた。 いよいよ刑務所とはおさらばだ。 体がやっと通るほどの狭い地下道、完全な暗闇の中、手足の感... 続きをみる

  • 数独

    「失礼します」 社長室に入ると、窓際に立っていた社長が振り向いた。白髪に白髭、服まで白、カーネルおじさんそっくりだ。 「おお、高橋君。座りたまえ」 勧められるままソファに腰を沈めるとギュギュッと鳴った。デスクから数枚の資料を拾い上げ社長も座る。 「君の人事部での評判は聞いとるよ。シフトの申請ソフトを... 続きをみる

  • 忠告を聞かないからこんなことになるんだ

    仕事帰り、今日も駅前ビルの発毛クリニックに寄った。 担当の娘がヘアチェック。白衣の胸がさりげなく腕に当たって心地よい。 「残念ながら頭皮の状態に改善は見られませんわ」 ヤバイ。思わず手をやった頭には、ほとんど髪がない。 「本当にハエルンKって発毛剤効くの?もう3カ月続けてるのに」 娘が同情をこめた口... 続きをみる

  • 鬼斬千兵衛、鬼を斬る!

    蕎麦屋に入る体を装い闇にまぎれて路地を抜けると、約束どおり桝屋吉右衛門が待つていた。 貝染めの頭巾で顔を隠した吉右衛門が押し殺した声で言う。 「待つておつたぞ、千兵衛」 「うぬ。して今回のタアゲツトは?」 千兵衛と呼ばれた男、身の丈170センチもあろうかという大漢である。 人呼んで鬼斬千兵衛、天涯孤... 続きをみる

  • I Love Money

    盆休み、家でごろごろしていたら妻から掃除機の吸込み口でコツコツ小突かれました。 うっとうしい?うっとうしいのはお互いさま、散歩にでも出掛けよう。 近所のコンビニに寄って雑誌の立ち読みです。ここで横になれたらどんなに幸せでしょう。 それにしても最近のコンビニの食いもんの充実ぶりってすごいなぁ。 ふんわ... 続きをみる

  • どうして最近のアイスは高いのか?

    「おいし!」 デザートのアイスを食べながら、彼女が満面の笑みを浮かべた。可愛い。 「ね、コンビニでね、ゴディバのチョコアイス売ってるんだよ。ちっこいカップのアイス。いくらだと思う?」 フフフ、もちろん知っている。でも敢えて答えを待った。 「ハーゲンダッツでも250円なのよ。ゴディバは420円だって!... 続きをみる

  • 深く愛して

    「念のため、お宅を捜査させていただいてよろしいでしょうか?」 小太りの捜査官が私に言った。炎天下というのにキツキツの青い作業衣に身を包み、いかにも暑苦しい。 「もちろん、かまいません。やましいことなどありませんから」 実は、やましいことがあった。失踪したことになっている妻は、実は庭に埋まっている。 ... 続きをみる

  • 俺たちのタイムマシン

    カララン、カララン ファミレスの床に下駄の音が鳴り響き、まっすぐオレに近づいてきた。 ヤツだ。ヤツが来たのだ。 腰に手拭いぶら下げている。さすがに蛮カラ学生服ではないが、汗じみた男の匂いは昔のままだ。 「お、久しぶり。遅れてすまん。暑中見舞いだ」 おいおい、もう秋だというのに今さら暑中見舞いの返事か... 続きをみる

  • 少年とエヌ

    地球に墜落したカプセルの中から宇宙生物が見つかった。 発見された場所を元にして学術名がつけられたのだが、人々は勝手にその生物をエヌと呼ぶようになった。 エヌは何とも得体の知れない生物だった。 ウォンバットそっくりのモコモコ愛らしい姿。 大きすぎず小さすぎず、赤ちゃんコアラのような抱き心地。 アルパカ... 続きをみる

  • おまけ

    おまけってイイよね。 ボクはチビッコの頃からおまけが大好き。 3枚10円のフーセンガムに入っていた、こすって貼るシール。 カバヤのジューCのフタのレンチキュラー。 のりたまふりかけに入っていたエイトマンシール。 ビッグリーグガムの立体パズル。 グリコの男の子むき女の子むきのおまけ、中でもビュンビュン... 続きをみる

  • 【twitterショート140字×3】三大がっかり昔話

    昔々、あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんに名前を聞くと、「わしゃあ山西じゃ」と名乗りました。へえ、山西さんか。するとお爺さんたちが次から次へと現れて、「わしも山西じゃ」「わしも」「わしも」エーッ、この辺りのお爺さんはどうしてみんな、やまにしばかりに? 悪童に苛められていた亀を助... 続きをみる

  • ブミキチャンカラノメセッージ

    コンチニハ。ミサナン、ワシタ、キウノノ オナハシデ トウョジウシタ ブミキ デス。 ワシタガ アリマモニ ニゲンンニ ニテルイカッテラ ミナン ビクッリ シタシデョウ? ア、ソダウ。ミサナン、キウノノ オナハシノ サゴイノ トロコ、マガチイニ キツガイタ? 「最後まで読んでいだたいてあがりとうごいざ... 続きをみる

  • ブキミちゃん

    新作ロボット発表会のステージ。 中央の椅子に女子アナそっくりのロボットが座っている。 BGMの音量が大きくなり、ステージの照明が明るさを増す。 拍手とフラッシュの中、ロボットの原型となったらしき女子アナがにやこかに登場した。 ボブカットの清楚な新人。花柄のワンピースが涼しげだ。 中央のロボットの髪形... 続きをみる

  • BBQ

    盆休みの夕方、所在なく近所を散歩していた。 先月、護岸工事が完了して白っぽいコンクリで固められた川を見下ろす。 先日来、大きなカメが一匹だけ戻ってきて泳いでいるのだが今日は姿が見えぬ。 甲羅の色合いからして、あれはミドリガメである。 昔、イシガメやクサガメが甲羅干ししておったものだが、今や外来種一匹... 続きをみる

  • 【twitterショート140字×3】蚊がいっぱい

    開けてみろよって、これってマトリョーシカだよね。中身はひと回り小さな人形だろ?そしてその中身も。もう誰も意外に思わないんだよ、コレ。じゃ、開けるぞ。おや?中から唸るような音がする。これは蚊の羽音じゃないか。それも膨大な数の!何なんだよ、これ!え?マトリョーシ蚊? 会議中、上司が口を挟んだ。「おい、君... 続きをみる

  • コラーゲンたっぷり、お肌プリップリ

    あ、お嬢さん、お嬢さん! え?人妻?45歳? ホントにぃ?見えないなぁ。お肌もピッチピチ、綺麗だもん。言われるっしょ? 何かスポーツとか?やってない?体も若々しいのに。旦那さんが羨ましいなぁ。 ボクと並んで歩いてもさぁ、恋人同士にしか見えないよぉ。ボク、奥さんならOKっすよ。 サプリとか?飲んでない... 続きをみる

  • ノルマ

    ブザーが工場内に鳴り響くと、モーター音が低くなり、ベルトコンベアがゆっくりと停止した。 「休憩20分」 労働者たちから一斉に安堵の吐息がこぼれる。 「だが、その前に工場長よりお話がある。諸君、よく聞いてくれ」 ハウリングの後、アナウンスの声が工場長に変わる。 「皆さん、ご苦労さまです。昨今、わが社が... 続きをみる

  • 奇数ゼミ

    「アメリカ東部にはね、地域ごとにセミが大発生する年があるんだ。それこそ町中がセミでびっしり埋めつくされるほど。会話ができないくらい喧しいらしい。大発生の周期は13年または17年。それで奇数ゼミと呼ばれてるんだ。知ってるかい?」 「へえ、不思議ね」 「なぜ奇数なのか?そこには周到な生き残りのメカニズム... 続きをみる

  • ママの味

    無人惑星に漂着して5年、ついに惑星付近を航行していた貨物船が微弱な救難信号をキャッチした。 惑星に連絡艇が着陸。5年前の不時着時、衝撃で砂漠に埋もれた脱出艇の中からボクを救出した。 「たったひとりで5年間よく生きてたなぁ。肌の色ツヤもいい」」 無人惑星を離陸した連絡艇の中、船医がボクを診察して感心し... 続きをみる

  • かくして老犬は偶像となれり

    それはまだ犬が鎖なしで町をうろついていた時代のことである。 駅前の焼鳥屋に今日も老犬が現れた。 店前に座った犬の顔を見て、客が失笑した。 目にはメガネ、鼻にはヒゲが墨で描かれ、羽根突きの罰のようだ。悪童の仕業である。 「おいおい、なんてブザマなんだ」 「大きな犬、あたし怖いわ」 「大丈夫、老いぼれだ... 続きをみる

  • 美人妻の告白

    ボクにはひとつの疑念があった。 いちばん下の子がボクに似ていない気がする。 地元の銀行に就職、支店長の紹介で見合いをし、もったいないくらい美しい妻を娶った。 五人の子供に恵まれ、皆すくすく育った。 だが、末っ子だけ、なんだか様子がちがうのだ。 上の四人のように、勉強にもスポーツにも秀でたところが見当... 続きをみる

  • 微笑微笑、美少女

    あ、カワイイ。 車内に乗り込んだ乗客の中、ひときわ目を引く女子高校生がいた。 すっぴんの清楚な顔立ち。艶やかな黒髪をツインテールにしている。陶磁器みたいな首すじのホワホワの後れ毛も愛らしい。 制服もブラウスもピンとシワひとつない優等生タイプ。 みとれていると、顔を上げた娘と視線が交錯した。年甲斐もな... 続きをみる

  • ウンコ製造機

    「博士、なんなんですか、コレは?」 「聞いちゃったかね、聞いちゃったね。フフフ、名付けて『ウンコ製造機』じゃよっ」 博士とボクが見上げるその装置は、プレハブ倉庫ほどの巨大装置だ。 計器やコードやチューブや、たくさんの部品がひしめきあって小刻みに震え、ウンウン唸っている。 「ウンコ製造機?」 ボクが驚... 続きをみる

  • シデムシ

    この虫、何ていう虫なんだろう。 ダンゴムシに似ているがそれよりもずいぶん大きい。後尾部分が先細りになっている点も違う。 フナムシにも三葉虫にも似た不思議な形。そして、ちょこまかととにかく動き回る。 先月、窓外を這っているのを初めて見た。それからたびたび見るようになって、最近毎日お目にかかる。 門前に... 続きをみる

  • わたしを選んだ理由

    わたしのフィアンセ、とってもステキなんです。 なかなかのイケメンだし、スタイルだって悪くない。それに、植物の育種を研究しているインテリなんです。 花と花をかけあわせて、品種改良していく専門家。 ショッキングピンクのペチュニアやら、かわいいアマリリスやら。 新しい品種を次々発表して、世界中の園芸家から... 続きをみる

  • 苦しい・・・

    く、苦しい・・・息ができない・・・ 窓ガラスがビリビリビリ、家がミシミシミシ。そして、胸には漬物石のような圧迫感! ガバリ。無我夢中で上半身を起こした。 ハアハア、ゼエゼエ。え?今のは何? 全身ひどく汗をかいている。夢だろうか?胸にまだ痛みがあるし、振動音が耳に残っている。夢じゃない。 これってカナ... 続きをみる

  • ロボット?

    「アレ?動カナクナッチャッテルヨ、コレ」 少年が不思議そうに昆虫を指先で突つく。 貴金属を思わせる、メタリックな光沢。昆虫かロボットか、わかんないくらい。 されるがままに六本の脚をちぢこませたまま、昆虫は無様にコロリと腹を向けた。 少年のトモダチが、電子眼で昆虫をサーチした。 「コレハ死ンデイマス。... 続きをみる

  • 空の上からこんにちは

    午前六時、携帯が鳴った。 おいおい、こんな朝っぱらから一体誰が電話をよこすんだ? 出てみると、大学時代の友だちだった。気の弱いヤツで、いつもボクを頼って引っついてた。 「朝からスマン。困ったことになっちゃって」 「え?どしたの?」 一応、相談に乗ったが、もうボクらは学生じゃない。今年の春からボクはこ... 続きをみる

  • ロジャー・ボンド絶体絶命!

    <絶体絶命までのあらすじ> ニューオリンズで英国諜報部員が次々と殺された。暗黒街を支配するミスタービッグが黒幕と睨んだ英国情報部は、腕利きのスパイ、ロジャー・ボンドを現地に送り込んだ。空港に颯爽と降り立ったロジャー・ボンドの前に、清楚だけど巨乳のジェーン・セイモアが現れる。女に目がないロジャー・ボン... 続きをみる

  • ようこそ地球号へ

    通りに出ると、大輪の花火みたいに町の景色が広がった。 カーニバルだ。 メルヘンチックな洋館が立ち並ぶ大通りを、金髪の少女たちの鼓笛隊が行進している。 金管楽器もキラキラだし、少女の笑顔もキラキラしてて眩しい。 溢れだした音符みたいに、紙吹雪と風船が飛び交っている。 紳士淑女たちがシャンパンで乾杯し、... 続きをみる

  • イソップ課長、かく語りき

    オホン!課長が大きく咳払いをした。 「チミ~、準備する時間は十分にあったはずじゃないかぁ。報告書がまだできていないなんてどうなってんの?」 「す、すみません・・・」 ボクは平謝りに謝った。 「チミは『アリとキリギリス』の話を知っているかね?夏の間、こつこつ働いていたアリさんと、歌って遊んでいたキリギ... 続きをみる

  • おじいさんのおんがえし

    ある町に心のやさしい青年がひとりで暮らしておりました。名前をマサト君と言います。 マサト君がバイトを終えてアパートへの帰り道、おじいさんが倒れているではありませんか。 おじいさんの足もとには野良犬殺しの毒マンジュウが! 「おじいさん、こんなもん食っちゃダメじゃないっすか」 マサト君はおじいさんの背中... 続きをみる

  • ボクたちなんだか気が合うね

    携帯を傍らに置いて、文庫本を読みながらパスタを啜る。 美味いなぁ、この店の焼きカルボナーラは。濃厚なチーズとパセリの風味が味わいを深め、黒胡椒がピリッと締めている。 イタリアン専門のファミレスで、ひとりで食事を楽しんでいると、 「相席してもいいですか?」 突然声をかけられてドキッとした。見上げると、... 続きをみる

  • 人生ターミナル

    真夜中の国際空港出発ロビーは、冷蔵庫の底の、空っぽの野菜室みたいだった。 遠くの聞き慣れない火山の灰の影響で、全便が欠航したままなのだ。 宿泊先のない若い乗客がわずかばかり、待合の椅子で仮眠をとっている。ボクのその中のひとりだ。 離発着ボードに並ぶ欠航の文字を焦点がぼやけて滲むままに見つめていると、... 続きをみる

  • マッチ売りの少女のために

    たとえばオレが大晦日に雑踏を歩いていたとしようじゃないか。 路傍のあちこちにはガチガチの雪が残っていて、冷たい風に身も心も凍てついてしまう。 そんな往来の片隅で、いたいけな少女がひとり、手提げ籠を抱きかかえ声をあげているんだ。 「マッチはいかがですか?マッチを買ってくださいませんか?」 気忙しく行き... 続きをみる

  • 動物園に行こう!

    土曜日。 パソコンに熱中していてふと気がつくと、妻があきれ顔で見ていました。 「もうあなたったら、部屋の隅でゴソゴソして。たまには家族サービスしてよね」 また小言です。せっかくパーツを買い集めて自作PCを楽しんでいるってのに。 「子供たち、動物園に行きたいってずっと言ってるの」 「動物園~?」 より... 続きをみる

  • PンダコPンダ

    「そこ、ハイ、T止!」 「ああ、やっぱり」 U野動物園のC育係とC育係長の二人、G務所のTレビ画面を覗き込んでいる。 T止した画面にはPンダの後ろ姿が映っている。 先日、C国からレンタルした例のPンダの胡座をかいた後ろ姿である。 「ホラ、ここ。見えるでしょ。縦にまっすぐ」 C育係の青年が画面を指でな... 続きをみる

  • タイムラグ

    まるまる太ったカイゼル髭の探偵にテレビカメラが向けられる。 照明の熱と緊張のせいで、探偵の赤ら顔が汗ばんでテカテカ光っている。 報道特番のアンカーが探偵に質問した。 「名探偵の誉れ高い、原井泰造さん。今回、日本中を震撼させた摩訶不思議な事件の謎を解明されたとか。その経緯をわれわれにもわかりやすくお話... 続きをみる

  • トキソプラズマ

    ひとしきり続いた拍手が止むと、ひと呼吸置いてボクは歌い始める。 最近、若手のミュージシャンがカバーしてヒットチャートを賑わしている曲。これだと若者にも年配にも受け入れられる。 案の定、最前列の上役もOLもボクをキラキラした目で見つめている。 決して上手くなくていい。一本調子に一節歌うくらいのほうが好... 続きをみる

  • 10センチの男

    半年もの間、テロ組織に身柄拘束されていた小磯松氏が解放された。 現地に駆けつけた報道陣を前に、早速会見が開かれた。 小磯松氏はさすがにやつれた様子であったが、しっかりした口調で語った。 誘拐拉致された経緯、犯行グループの特徴、拘束中の待遇、解放された際の様子。 何より記者たちを驚かせたのは、小磯松氏... 続きをみる

  • 呪い

    2009年8月に書いたものです。2011年7月、もぐらさんに朗読していただきました。 もぐらさんの『さとる文庫』では、『世にも不思議なショートショート』と題して、ホラーなショートショートの朗読をお楽しみいただけます。 ぜひ、朗読でもお楽しみくださいませ。(文字をクリックすると『さとる文庫』へ) ♪コ... 続きをみる

  • 新幹線、夜の果て

    宴会が終わっての帰途、さんざん酔って新幹線に乗りました。 新幹線の車内ってなんでこんなに冷房をガンガンかけてるんでしょう。節電のために多少温度を上げたそうですが、十分寒い。 乗ったときのヒンヤリ感は爽やかですが、降りたときムワッと暑苦しい空気に抱かれる不快感のほうがひどい気がします。 夜の新幹線の客... 続きをみる

  • 味噌汁はやっぱりイリコのダシでしょう?

    むむっ 味噌汁を一口、二口と啜って、眉間にシワを寄せた私を見て、妻が言う。 「どうしました?おダシはちゃんと入れましたよ」 「うむ、だが、やはりちょっと薄いのではないか?」 「ちゃんと粉末スティック半分を入れましたよ」 私は黙り込む。 ちゃんとイリコを使ってダシをとってほしい。自分ならそうする。だが... 続きをみる

  • ちゅうくらいの人

    佐藤老人の病室に、医師と男が入ってきた。いかにも小役人といった風情の中年男だ。 医師がリモコンで介護ベッドの上半身を起こすと、男が老人に名刺を差し出した。 『全国統計局調査員』 聞いたことがない。佐藤老人の怪訝な表情に、男は心得顔で応えた。 「御存知ないかもしれませんが、私どもは国の平均値を調査する... 続きをみる

  • 甦れ、毛根

    三十代の後半から、髪が薄くなってきた。 細く頼りなげになって、湿気のある日はペシャンとボリュームがなくなった。 洗髪していると抜け毛の多さに悲しくなった。雨粒が頭皮に直に触れて冷たかった。 四十の半ばでこのとおり。 そんなとき、人づてにスゴイ薬を開発した博士がいるという話を聞いた。 藁にもすがる思い... 続きをみる

  • そしてラジオは雄弁に語った

    ボクが心にたまったアレコレをひとしきり話し尽くす間、医師は神妙にうなずいていた。 一言も邪魔せずに聞き入る姿勢に好感がもてた。それで、ボクは思いの丈をぶちまけた。 今、この国で起こっている大厄を乗り越えるに、現政府はあまりにも無力に思えること。 国民生活を脅かしかねない、この現状を変えるために、ボク... 続きをみる

  • つまり、ものは見方次第って話

    たとえばさ、お前のアパートの、そこ、棚ン上、音楽プレイヤーの隣にさ、ドクロが置いてあったら不気味だよね。 ヨーロッパ中世の知識人は、書斎にホンモノの頭蓋骨を置いていたのさ。メメント・モリ、つまり『汝、死を忘るるなかれ』ってわけ。 今じゃ考えられないよなぁ。 それにさ、本物のドクロの横の、ほら、漫画雑... 続きをみる

  • 科学的な、あまりにも科学的な

    ピンポ~ン 誰だろう?インターホンの画面を見ると、玄関に立っているのは、作業衣にヘルメットの男。電気作業のお知らせかぁ? 「はい?どちらさまで?」 「お宅から漏電している様子で、検査にまいりました。NJKの不知火という者です」 漏電?うちから? 玄関を開けると、門の前にテレビ中継車みたいにアンテナや... 続きをみる

  • やり直したい、何もかも

    休日、ミチコちゃんと映画を見て食事して、車で自宅に送った。 ミチコちゃんの家の前で車を停めると、ボクは勇気を奮い起こして告白した。 「ミチコさん!結婚を前提におつきあいしてください!」 ・・・・・・長い沈黙・・・・・・アレ? 「ゴメンナサイ。ホントにゴメンナサイ。でも急に結婚だなんて。よく知り合って... 続きをみる

  • ストリングス

    朝食を食べて、薬を飲んで、電車に乗って。 変わらない平凡な一日の始まり。電車の中は表情のない人形たちで溢れていた。 そうだ。彼らは操り人形だ。 ボクが主人公のこの世界の脇役たちにすぎない。ボクが改札を出て、視野から消えた途端に役目を終えて静止する人形たち。 ボクは人形じゃない。人形じゃないと思うゆえ... 続きをみる

  • コレクター

    金飾りの丸鏡に映った私が微笑んだ。ウェーブした艶やかな髪、鼻筋の通った顔だち、そして何よりもしっとりときめ細かな肌。 私は自身の若さと美貌に惚れ惚れとした。 「貴女のお口に合うといいんだが」 ふり返ると、両手にワイングラスを手にした彼もまた私をうっとりと見つめていた。 冷えたワインで唇を湿す。辛口の... 続きをみる

  • 七月七日

    「もう終わりね」 隣のベッドに横たわる夫の背中に囁く。 「なぜ?」 振り向きもせずに夫が尋ねる。 わかっているはず。あなたはもう私を見ようともしない。 「あなた、すっかり変わってしまったわ」 こんなに近くなのに。こんなに離れている。 一年に一度しか会えなかった頃、どんなにせつなく恋い焦がれたか。いつ... 続きをみる

  • だって熊だもん

    目が覚めた。 あんまり長く、そして深く眠っていたので、最初なにがなんだかわからなかった。 ボ~ッとした頭で考え始める。 そうだ。オレは熊だ。 冬の間、冬眠してたんだっけ。 こうやって目覚めたってことは、もう冬は終わったにちがいない。ああ、やっと外に出ることができる。 長く伸びた爪で、口の周りの黒々と... 続きをみる

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