ココア物語・改 17
由美子先生は、少し苦い顔で息を吐いた。 「……あれはね、はっきり“亀裂”だったわ」 その言葉に、私は背筋を正した。 「ステラが、ある程度知られるようになって。 外部のスタジオを借りて、練習するようになった頃」 防音室。 無機質な壁。 時間で区切られた、閉じた空間。 「逃げ場がなかったのよ」 その日も... 続きをみる
由美子先生は、少し苦い顔で息を吐いた。 「……あれはね、はっきり“亀裂”だったわ」 その言葉に、私は背筋を正した。 「ステラが、ある程度知られるようになって。 外部のスタジオを借りて、練習するようになった頃」 防音室。 無機質な壁。 時間で区切られた、閉じた空間。 「逃げ場がなかったのよ」 その日も... 続きをみる
由美子先生は、少しだけ視線を落とした。 「……でもね」 その声は、どこか慎重だった。 思い出を“美しく語らない”と決めた人の声だった。 「ずっと、あんなに穏やかだったわけじゃないの」 奈美も智恵も、口を挟まなかった。 私は、胸の奥がわずかに冷えるのを感じながら、 次の言葉を待っていた。 「ステラが、... 続きをみる
由美子先生は、少しだけ視線を落としたまま、言葉を続けた。 「……でもね」 その声は、静かだった。 「壊れる前のステラは、決して不安定なバンドじゃなかったの」 むしろ―― 音は、はっきりと“前に進んで”いた。 演奏は揃っていたし、衝突も少なかった。 誰かがミスをすれば、誰かが自然に埋める。 高校生のバ... 続きをみる
「ステラはね、特別なバンドじゃなかったのよ」 由美子先生は、そう前置きしてから続けた。 「放課後に集まって、狭い部室で音を出して。 誰かが間違えれば、誰かが笑って。 そんな、どこにでもある高校生のバンド」 でも―― その「どこにでもある」は、どこか違っていた。 「優一はね、いつも全体を見ていたわ。 ... 続きをみる
由美子先生は、少しだけ間を置いてから、静かに話し始めた。 「……これは、ずっと昔の話よ」 その声は、説明するための声じゃなかった。 誰かに分かってほしいというより、 思い出に触れないように、そっと撫でている声だった。 「私が“ステラ”のメンバーと出会ったのは、 高校に入学してすぐの頃だったわ」 窓の... 続きをみる
第三章 記憶の歌 由美子先生の家に戻った四人は、 リビングで今日の出来事を振り返っていた。 テーブルの中央には、レンガ造りの隠れ家喫茶店で手に入れた、 四つのマグカップ。 同じ形なのに、どれも少しずつ表情が違って見える。 私はその一つを手に取り、そっと指で縁をなぞった。 「……このマグカップ、なんだ... 続きをみる
由美子先生の家での生活が、いつの間にか数日続いていた。 名目は夏休み合宿。 実際は、練習したり、だらけたり、夜に花火をしたり―― 気づけば、私たちはこの家で“普通に暮らして”いた。 周りに民家のない大きな家。 昼間は防音室で思いきり音を出し、 夜は風の音と虫の声に包まれる。 由美子先生は、最近、 私... 続きをみる
夕飯のあと、食器を片づけ終えたキッチンには、 水の音だけが静かに残っていた。 「手伝います」 美奈子がそう言うと、由美子先生は小さく首を振った。 「いいの。今日は、もう十分頑張ったでしょう」 その言葉に、美奈子はそれ以上何も言えず、 布巾を置いて一歩下がった。 リビングでは、奈美がソファに深く座り込... 続きをみる
現在連載中の「ココア物語・改」ですが、 更新曜日を日曜へ戻すことにいたしました。 第一章の区切りを経て、 今後は 毎週日曜更新 といたします。 ココア物語・改8は3月22日からになります。 これまで金曜更新としてお知らせしていましたが、 水曜日に掲載している恋愛百合小説の執筆との兼ね合いもあり、 創... 続きをみる
連載小説「ココア物語・改」についてのお知らせです。 いつもブログを読んでくださりありがとうございます。 現在公開を始めた連載小説 「ココア物語・改」ですが、 更新曜日を変更することにしました。 これまでプロフィールでは 日曜更新としていましたが、 今後は 毎週金曜13:30更新 といたします。 本日... 続きをみる
あれは、2025年8月の終わり。 何か書いてみたい、という小さな衝動。 私のバンド経験から、 『ココア物語』は生まれました。 連載を終え、別の作品を書く中で、 あの物語を、今の自分の視点で描き直したいと思うようになりました。 こうして、『ココア物語・改』として、 もう一度この物語を紡ぎ直します。 あ... 続きをみる