• 「真夏の夜の夢」シェイクスピア 新潮文庫

    シェイクスピアの作品にはおよそ必ずと言っていいほど原作となる種本があるのですが、この劇には筋となる種本がないそうです。まさしく真夏の夜に見る夢のような筋書きのない劇が進行します。劇が終わった後には、じつにあざやかな夢から覚めたような気持ちにさせられます。シェイクスピアは詩人としてその経歴をスタートさせたと言われていますが、この劇はそのシェイクスピアの無垢な詩的才能が全面に溢れ出た雅やかな喜劇です。

  • 「町人貴族」モリエール 岩波文庫

    頭の働きは悪く、無教養だが大金持ちの町人ジュールダンは、貴族になりたくてしようがありません。貴族の真似をして、じつにさまざまな習い事に手を出します。ついには、娘も貴族でなければ、嫁にやらないと言い出しますが、ジュールダンは、貴族のしたたかさに手もなくやられてしまいます。観客はその有り様に抱腹絶倒しますが、いつの間にか、この町人に人間的な共感が湧くのを禁じ得ません。哲学の講義の際、哲学が本質的に揶揄

  • 「タルチェフ」モリエール 岩波文庫

    タルチェフは偽善者の代名詞となった劇中人物です。敬虔な宗教家を装い、金満家のオルゴン氏を夢中にさせてしまいます。他の登場人物たちは、もうすでにタルチェフの正体は、ほとんど見抜いているのですが、オルゴン氏だけは宗教的な高揚さえ、タルチェフに感じています。タルチェフはオルゴン氏一人に対しては、思いのままです。本当の偽善者というものは、そういうものなのでしょう。オルゴン氏は、他の人たちの賢い忠告には、一

  • チェーホフ「桜の園」 新潮文庫

    帝政ロシア末期、停滞しきった活力のない社会を背景に、後は消え去るのみの没落地主の貴族とその他の人たち。チェーホフは、じつに澄み切ったまなざしで、彼ら、運命に押し流されていく役割の終わった人間たちの姿を描きます。劇の最後、溜め息のように登場人物が自身につぶやく「この出来そこないめが。」というセリフが、不思議な安らぎをもって胸に迫ります。見事なしずかな喜劇です。