• 現代詩 詩という軸

    詩は生をつらぬく軸である 悲しみはかたちをもとめる声である 夏は去る 詩は真実の夢を紡ぐ器となりえるのだろうか

  • 現代詩 臨済

    精神とは爽快な風であるか 文字は吹き散らされ 理は切断され 言葉は無重量の場に遊ぶ 感情は飛ぶ鳥のように軽く 跡を止めない 万物は動いてやまない 人間の顔が現れる 何ものも加えられることはなく 何ものも失われることはない 光は疾風のように現れては消える 彼が動くにつれ世界は動く 世界が動くにつれ彼は動く 衣を翻し 男は杖を振り上げる 満面の笑みを浮かべ 男は 世界を一刀両断した 弟子たちは痴呆のよ

  • 自作詩 ゴッホ

    ここに人間がいる オーヴェルの夏の空の下 大地の黄と空の青とが直に連続する 色調の緊張に抗し 裸心だけで立ち続ける奇妙な人間がいる よくよく見れば なんというボロ着を纏った 人生に踏みつけにされた男だろう 武骨な節だらけの手は 画筆より鶴嘴を握った方が よく似合う 頑丈な真っ直ぐな腰は異様な忍耐力の 確かさを思わせるが 双肩はすでに健康な均衡を 失っている 麦畑がざわめく 男はもう驚きもしない も

  • 自作詩 セザンヌの余白

    書かれなかったことで 永遠に安らっている 隙間 サント・ヴィクトワール山は あんなにじっくり見つめられて逃げ出したくはなかったろうか 空さえも 動かぬ色を 剥き出しにされ 四角い額の中に収められてしまった 事物はみるみる表皮をはがされ 自然は その驚くべき心を われわれに通わせる そのとき 唐突に置かれる 一個の山 存在は 存在するという理由で しずかに揺れ 充溢した空白を作り出す 書かれなかった

  • 自作詩 セザンヌ

    セザンヌの髑髏は白い リンゴは熟れている ああ 軽い 実在のなんという正確な軽さ 空気はリンゴと 空は家と 人は木と 等質な存在 骨牌は礼拝と 日常は死と 切れ目なく繋がる リンゴは浮いているようにも また 世界の中で 確固とした位置を占めているようにも 見える このみんなから侮られ モティーフを求めて ホームレスのような風体で あちこち うろつき廻る男は いったい何者か 大きな世間しか取り合わな

  • 自作詩 若い友の訃

    山縣よ お前は気ままに生きて 勝手に逝った 建設現場で得た金は酒と女に 費やされた アトピーを抱えた体も意にも介さず お前は不摂生を続けた それがお前の魅力でもあり欠点でもあったが 最期を見とる人はいなかったが 通夜には多くの弔問客が訪れたという 俺はお前が放った愚かな一言のために お前の葬儀に行くことを拒んだ 春だというのに雪が舞った ああ おろかなのはどちらだったろうか お前の死に顔は安らかだ

  • 現代詩 ヴィジョン

    しずかな明るさを抱いて 歩いて行くことができるならば 憂いよりも喜びが好もしいものであるなら 詩人は口をつぐむ 言葉よりも先に微笑みがあらわれてくるように やすらかな目が あかるい覚点を獲てくれるように 蟻は創造され 白い蝶の羽根を運ぶ 風は止み 瀞<とろ>とした川の上を一枚の葉が流れる 長い棹が翻る 春の日は 新しい謎にかけられたように 霞んで 「Hideのおすすめ本とエッセイと絵と詩のブログ」

  • 自作詩 知人の訃

    その人は甲高い声で とある文章の是非を論じていた 眉を吊り上げ鼻の穴を膨らまし 性急にその文章の作者の不誠実を難じた その人にとって文章の難解はそのまま 作者の不誠実であった 論理の糸は単線で屈曲を欠き あちこちの壁にぶつかった 通念の鎧で覆われた感性は柔軟な動きを成し得ず 複雑に折り畳まれたニュアンスを 解し得なかった 矛盾があらわれた その人はついにそれを解決しなかったが 幼年時代という王国を

  • 自作詩 詩人 「改版」2

    生きのいい言葉はないか プロ野球投手の弓のように撓る身体からうなりをあげて 捕手のミットにズンと受け取められる 硬式ボールのような 手が赤く腫れ上がるくらいの手応えのある 確かな言葉を それは単なる 記号でも 観念でも プロテストでもなく 一人立ちした 言葉そのもの 象徴 いやそのような言葉ではなく 実在 いやそれでもない 一眼レフカメラのレンズのように 磨き抜かれた 言葉 我々をしんじつ目覚めさ

  • 自作詩 女たち

    雨上がり 濁流は流れる たくましい遡上を続ける魚群を 孕みながら 鮮明な絵に描かれていたのは 風 知る人もない町の月明かり ああ 運命はわたしに諦念を贈ってくるのだろうか 優雅にも崩落していく女たちを 目の当たりにして

  • 自作詩 真理(truth)

    町の灯が星の輝きを消してしまうように 光はじつに多くのものをかくした いつも控え目に片隅に埃をかぶって あまりに手近なあまりにあたりまえなもの 手垢に汚れた古本のように わざわざ取り出して見ることもないくらい 喜びは孕み 悲しみは生む アンナ・マグダレーナ・バッハのように 単純な生活の真実な感情 激情に蝕まれ 夢に病むこともない 月は高く 闇は語る あ それはこれであったか

  • 自作詩 同時代

    見知らぬ人と視線を交わし 命の重さをはかってみる そのあなた達のたましいの なんと軽くて重いことよ 同じ時代に生まれたことで しばらく時を分かち合っている そんな日の夕暮れにあなた達は ロウソクのようにわたしの前を通り過ぎる こんなにしんしん切ないなんて  どうやらわたしは夢を見ている またいつか会える日が来るのなら ぼくらはどんな顔して会うのだろう 結び合った糸が他の糸を求め ふたたびほぐれて風

  • 自作詩 ケイへ  <改版>

    小高い岩山の細い山道を辿り 頂に着くと わたしは対流圏に閉じ込められているのを発見した 樫の木の枝を握りながら 空がひたすら青くひたすら高いのがもどかしかった ああ 風が吹いているのだよ ケイ 茶褐色に削り取られた斜面は わたしの怯懦に適切なくぼみを与えてくれた どこにもいく場所がないから わたしはここにいる ここで覚めきって夢を見ている 確かでそして不安なことだ ああ 風が吹いているのだよ ケイ

  • 自作詩 ヴィジョン

    しずかな明るさを抱いて 歩いて行くことができるならば 憂いよりも喜びが好もしいものであるなら 詩人は口をつぐむ 言葉よりも先に微笑みがあらわれてくるように やすらかな目が あかるい覚点を獲てくれるように 蟻は創造され 白い蝶の羽根を運ぶ 風は止み 瀞<とろ>とした川の上を一枚の葉が流れる 長い棹が翻る 春の日は 新しい謎にかけられたように 霞んで

  • 三鞭酒(シャンペンしゅ)   日夏耿之介

     日夏耿之介詩集から「三鞭酒」という作品を紹介します。    三鞭酒ー又は流火の歌  良後(あたらよ)の天床(ふしど)に於ける片破星(かたわれぼし)は  夥しくこぼれし三鞭酒(シャンペンしゅ)の一滴にすぎず  微星(ぬかぼし)らの声音(こわね)を好む  神経質の笑ひにて  其存在を精密に高度(かうど)に知覚すべければ  詼諧(くわいかい)よ 衝動よ 慟哭(どうこく)よ 歓呼(くわんこ)よ  房心(

  • 自作詩 モーツァルト頌

    喜びはモーツァルトを聴くこと 時にふと誰かが聴いている モーツァルトの音楽に耳を澄ますことは 無上のよろこびである なんという絶対の新しさ なんという絶対の自然さ どこまでもつきぬける自由 流れ出して止まない無限のやさしさ きよらかな泉のようによどみを知らず溢れでる抒情 そうして 異様なまでの多様性 それでいて ダイヤモンドのような確かさ 桁外れの芸術 いや 言葉のもどかしさに戸惑う 当たり前に聞

  • 自作詩 夜の航海

    船乗りたちが飽きず眺めた星空を、今夜ぼくは見ることができるだろうか 船底で泣き、強い酒に焼けた、彼らのたくましいのどに通う歌をぼくは歌いたい 甲板に何日も、居座り続けたアホウドリを〃親父〃と呼んだ彼らの生を、ぼくは語りたい   雲の垂れ込めた 夜の海 船は暗黒の航海をつづける 船乗り達は眠る 明日の長くはげしい労働のために 彼らの夢に彼らの灯台は灯っているだろうか ぼくは眠らずに目を凝らそうとする

  • 現代詩 半跏思惟像

    しずかにかんがえることができるならば ゆっくりと 書物から真理が立ち上がってくるときのように 感情は軽やかであるか 理知は瑞々しく働いているか 感覚は研がれているか 神経は末端まで届いているか 血流は潮のように満ちているか そして 何にもまして澄み渡っているか 弥勒 空というヴィジョン 時は静止し 思考は未知なるものを生み出すよう 新しい人を

  • 自作詩 思想 1

    信という選択 不信という不毛 喜びというせせらぎ 悲しみという海 文学という白日夢 哲学という留め金 科学というファンタジー 自己という流動体 証明という照明 深層という新層 思想という彫像 自由という女神 認識という征服 悟りという傾斜 生命という持続 それでは 世界とは

  • 時間の蛇

    時間の蛇 力を嵩にきて、卑劣な脳髄を持つもの。群猿 の王。その王の見えない杖。その杖に捲きつ いた時間の蛇。時間の蛇はらせん状に、しか し容赦なく群猿の王を滅ぼす。生死ともに時 間の恩寵なのだ。 時間の蛇が支配する世界。 群猿の王。蒼いそ の脳髄で、未来に餌を置い ている。目的化す る手段。偽りの口実。罠に かかっているとも 知らずに、すでに罠にかか っている群猿の王。 本来、生に目的などはな い