• 妄想 森鴎外  を読む

     森鴎外の「妄想」はエッセイのようであり、私小説、詩のような部分もある。鴎外は夏目漱石ほど人気はないが、漱石より魅かれるところがある。  下部に挙げる文脈でそのわけが判ったような気がした。文中のハルトマンはエドゥアルト・フォン・ハルトマンのことだと思われる。  形而上学と云ふ、和蘭寺院楽(オランダじゐんがく)の諧律(かいりつ)のやうな組立てに倦(う)んだ自分の耳に、或時ちぎれちぎれのAphoris

  • 「高瀬舟」森鴎外 新潮文庫

    江戸時代に取材した短編小説です。話の主題はたいへん重く、実の兄弟をやむを得ない事の成り行きからあやめてしまい、護送船に乗せられた男の話です。ここでも、やはり鴎外は自分の意見などを陳述していません。ただ、護送船の船頭にこの男は果たして、罪人と言えるのだろうかとお上に問うてみたいと思わせて、物語を終わります。筆者自身はまったく冷厳に沈黙したままです。読者はさまざまな想像や考えをかき立てられてやみません

  • 「阿部一族」森鴎外 新潮文庫

    鴎外の文章は剛直そのものです。まったく当たり前な文章法に従って書かれているにも関わらず、鴎外の強い個性と文章本来の持っている力強さがにじみ出てきます。この作品は、ある人物のひょんな通癖が巡りめぐって、一族もろともの滅亡にまで発展してしまうという皮肉な悲劇ですが、筆者は、ここになんの説明も加えていません。読む者が、この話をどうとろうが勝手次第だという苦み走った筆者の面構えが見えてくるようです。鴎外は

  • じいさんばあさん!

     今日は夫婦の日だけど、最近、夫婦のいい話を聞かないなと思うと、ふと思い出すのは森鴎外の「じいさんばあさん」だ。  美濃部伊織という武士とその妻るいの生涯を描いた短編であるが、実に短い。その夫婦となったものの、夫伊織が誤って人を死なせたことで、流され、その後、妻はずっと武家奉公をして暮らし、隠居してからは美濃部家の墓に香華を絶やさず、そのうち、夫は許され、江戸にもどる。そして妻るんも江戸へ出る。じ