• [35.日付けを過ぎても]

    こんな話がしたかったわけではない。 男女が別れるのに、穏便になんていく筈ない。でも、穏便に話を済ませたかった。 有架里もつい強気で出てしまった。 「こんな話、止めよう? あなたも、今朝、私が疑ったことで、私との仲を解消しようとしたでしょう?」 「それは……。だって、そうだろ? あんな疑われ方されたくないな。その上、君には別れてない彼氏がいた。」 「違うの。彼氏なんかじゃないの。」 耕平にざっと瑛太

  • [34. 日付けを過ぎても]

    「君、彼氏と別れてないじゃない? それでよく僕と一夜を共にしたね?」 「それは……私が寂しさからふらふらしてしまったの。耕平にも、申し訳ないことしたと思ってる。ごめんなさい。」 海風が頬を強くさすってくる。 「僕はもて遊ばれたってわけか。新進の作詞家さんに。」 「……。」 「週刊誌ネタになるかな?」 脅されてることをハッキリと自覚した。 ここで話していてはいけない。 「その件でゆっくり話したいから

  • [33.日付けを過ぎても]

    「違っ……て、言ったら、嘘になる……。」 有架里は事の経緯を、意を決して話した。 瑛太に嘘は通じない。 嘘をつく位なら、初めから正直に話して軽蔑されるほうがまだマシだった。 『なんだー、その男!? 今、一緒にいるのか?』 「今はいない……。」 『目の前にいたら、ぶっ飛ばしてやりてーよ。』 「……。」 『なあ……、別れちまえ?』 「うん。」 『なんでこんなことになるんだろうなあ-。』 瑛太は何か言い

  • [32.日付けを過ぎても]

    瑛太との話し合いで、色々なことがわかった。 それにしても、瑛太もよく、速達で飛行機のチケットを送ったものだ。コンサートのチケットもそうだ。紛失など、怖くなかったのだろうか? それについては、 「怖かったよ。でも、俺、焦ってしまって……。特に飛行機のチケットでは。」 と、言われた。 話が長くなるのを感じた耕平は、手でドアを指差して、客室を出た。 『有架里、誰かいるのか?』 「ううん。」 『そうか。一

  • [31.日付けを過ぎても]

    瑛太の話はこうだった。 飛行機のチケットを入れ忘れたことを数日経ってから気付き、慌ててアメリカから速達で送ったそうだった。 だが、速達は戻ってきた。宛名不明で。 『でも俺、仕事で家を留守にしていたから、戻ってきていたこと気付かなくて……』 リーダーシップをとる強気な瑛太が、瑛太にしては珍しく弱々しい声だった。 宛名不明に、引っかかった。 有架里は転送届を出している。1年毎の更新もしている……。 そ

  • [30.日付けを過ぎても]

    電話をかけてきたのは妹のあづみからだった。 「お姉ちゃん! 瑛太さんと連絡取れた!」 「えっ!?」 「お姉ちゃんの携帯番号、伝えたから、かかってくると思う!」 何がどうしてこうなったのか、分からない……。 「彼氏から?」 耕平の一言でハッとした。 「違う……。妹から。」 「そうなんだ……。で、僕達は、どうなるのかな?」 そこへ、見知らぬ番号からの着信があった。 「妹?」 「違う……。」 「じゃ、や

  • [29.日付けを過ぎても]

    そのうちの1人は、客室も近く、見知った女性だった。 「……ねえ……。」 「……うん……。」 何やらもごもご言いながら、有架里のほうを見てくる。 「ねえあなた、こんなこと言いたくないんだけど……。」 見知った顔の一人が、言いにくそうに目を細めて口を開いた。 「あなたの彼氏のことなんだけど……。」 その婦人が言うには、耕平には、横浜で降りた恋人らしき人物がいること、その女性とも、船内で知り合った様子だ

  • [28.日付けを過ぎても]

    こぼれた涙を耕平に、指で拭い去られた。 顎をくいと、引き上げられた。 その晩は、二人で過ごした。 翌朝、目が覚めると、耕平はもう起きていた。 「おはよう、ハニー。」 と、照れくさくなる呼び方で呼ばれた。 ブランケットを上まで引き上げると、 「何、照れてるの?」 と、いつもの笑顔でブランケットの中に入ってこられた。 「キャッ!」 「キャッ!じゃない……。」 何度も何度もキスをした。 こんな朝を迎える

  • [27.日付けを過ぎても]

    「君はそれを僕がしたと、思ったね。」 耕平に言われ、ハッとした。 「そのチケットは、最初から二枚重ねになっていたよ。どうしてそんな、ややこしいことをするのか、僕にはさっぱりわからない。」 いつになく、耕平はかなり真顔だった。 いつもの屈託なくよく笑う耕平ではない。 「もう、彼氏のことはいいだろう? そんな手の込んだことする奴、訳分からないだろう? 僕ならやめる。やめて、新しい恋をする。」 真摯に見

  • [26.日付けを過ぎても]

    あづみの記憶も有架里と同じだった。 「でも、チケットの日付けは違う。しかも、ここは海の上。到着した時点で、コンサートは終わってる……。」 「どうしよう……。」 こんなミスをするとは思わなかった。 なんで……。 しかし、よく見ると、チケットの日付け部分に爪でこすったような跡が見られた。 「何、これ……?」 別の意味で言葉が震えてきた。 ……待って、有架里。今はこの人と二人きりなのよ。 自分に言い聞か

  • [25.日付けを過ぎても]

    「チケットは本物だったよ。良かったね。」 と、笑顔でチケットを渡された。 ホッと肩の力が抜け落ちた。 「あれ? まだ着替えていなかったの? て、僕もだけどね。今夜は部屋で一緒に食事しない? 大丈夫、襲ったりしないから。」 冗談ぽく言われて、つられて有架里も笑った。 「笑ってるのが一番だよ? ジメジメしててもしょーがない。僕の部屋でもいいし、君の部屋でもいいし。」 「……じゃあ、私の部屋で……。」

  • [24.日付けを過ぎても]

    客室に入ると、有架里は胸が高鳴ってることに気付いた。 チケットが本物かどうか調べるためだけではないことは、わかっていた。 でも、見たくない現実だった。 瑛太を追って、船旅を選んででも、アメリカへ行きたかった。 その船旅で、まさか耕平に心揺れるとは思わなかった。 あの日、あの時、瑛太に自分の心をもっと、押してほしかった。 心を押し倒されたかった願望が、耕平の振る舞いと二重になっていく。 ……私はどう

  • [23.日付けを過ぎても]

    「ねぇ、そのチケット、見せてくれる?」 不意に耕平に言われて、顔を上げた。 「やっぱり、彼氏絡みのことになると、反応早いね。」 溜息混じりに苦笑された。 有架里は返事に困りながらも、チケットをバッグから取り出し、耕平に見せた。 「本物かどうか調べてあげる。」 「えっ?」 「だって、もし偽物のチケットなら、行くだけ無意味でしょ?」 偽物……。考えてもいないことだった。 「僕の友達に音楽業界で働いてる

  • [22.日付けを過ぎても]

    「考えさせて……。」 有架里は言ってから、ハッとした。 ……今、なんて言ってしまったのだろう……。考えさせて? 何を? 「何を考えるの?」 耕平は困った口調で言った。 夕凪が耕平の頬をかすめ、栗色の髪がサラサラとしていた。 綺麗だと思った。 耕平の顔立ちは悪くない。むしろ、イケメンだ。 瑛太のことがなければ、夢中になっていたのだろうか。 「……部屋まで行ってもいい?」 耳元で囁かれた。 「……。」

  • [21.日付けを過ぎても]

    耕平はエスコート慣れしていた。初めての船旅に緊張している有架里を、あちこち連れ出してくれた。 ゴルフの練習、フィットネスセンター、カジノ、ショー……。 有架里がアートクラフトの講座を受けてる間は、耕平はライブラリーで読書をしていたり……。 気付けば、船内の夫婦ペアと変わらない行動をしていた。 ある日の夕暮れだった。 デッキで夕方の風を気持ち良く浴びている時、 「アメリカへ行くのは、彼氏が目的らしい

  • [20.日付けを過ぎても]

    お一人様参加OKのそのツアーは、たしかに、若い世代の者も多かった。 赤道を2回回り、40都市に寄港するクルーズだった。 次の寄港地はロサンゼルスで、ロスから目的地までの国内便の手配もできていた。 客室に入ると、早速テレビをつけた。 オーシャンビューのデッキ付き客室など、予算的に取れる筈もなく、窓の無いシングルの客室を選んでいた。 テレビをつけると、海の様子が映った。ここから、日の出や日の入りも見え

  • [19.日付けを過ぎても]

    瑛太に会いに行くことにした有架里は、早速、飛行機のチケットを手配することにした。 が、なぜか行きたい期間内でのエコノミー席は、どこの航空会社も満席だった。 ビジネス席は空いてるものの、二人分のビジネス席の料金を出すことに躊躇ってしまった。 まさか、あづみに出させるわけにはいかない。 二席くらい、簡単に確保できると思っていた。 歯痒い気持ちでパソコンの画面を見つめる。 ……そうだ! 飛行機で行くこと

  • [18.日付けを過ぎても]

    アメリカへ行きたかった。 家へ帰ると、鞄から手紙を取り出した。 ミルク色の封筒の裏には、理系男子よろしく達筆ではないものの、一字一字丁寧に書かれた文字で名前と住所も書かれている。 住所を地図アプリに入力してみた。 チャールズ川の見える範囲内に、赤いピンポイントマークの立つその立地は、瑛太の通う大学をすぐイメージできた。 日本で言えば、学園都市だったり、文教地区といったところだろうか。治安のほうは、

  • [17.日付けを過ぎても]

    「うーん、なんて言ったらいいのかなあ……。でも君のことだから、俺の話、十中八九、聞かないから、自分で決めたように進むといいよ。後悔しないから。」 雅記は、「マジ、ホントに。」と言い足して、アイスコーヒーを飲み終えた。 「悪りぃ、俺、このあと会社行かなきゃいけなくて。」 と言い、伝票を持ってさっさと立ち上がった。 「また何か進展したら教えてくれよ?」 と言われ、雅記とはラウンジの入り口で別れた。 有

  • [16.日付けを過ぎても]

    「きっかけは瑛太君、サークルをやめた時のこと。」 「ああ、会社、起業してだったよな?」 「うん、あの時、瑛太君に「もう俺、先輩じゃねーよ」て笑いながら言われて。」 「うん。」 「じゃあ、「瑛太君と呼んでいい?」と聞いたら「うん」て。それだけ。」 「へ? それだけ? 簡単な理由だなー。」 「うん。」 雅記はアイスコーヒーを飲んで、口を開いた。 「君のこと、好きなんだろうなあ……。」 雅記は遠い目をし

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