• [28.日付けを過ぎても] [28.日付けを過ぎても]

    こぼれた涙を耕平に、指で拭い去られた。 顎をくいと、引き上げられた。 その晩は、二人で過ごした。 翌朝、目が覚めると、耕平はもう起きていた。 「おはよう、ハニー。」 と、照れくさくなる呼び方で呼ばれた。 ブランケットを上まで引き上げると、 「何、照れてるの?」 と、いつもの笑顔でブランケットの中に入ってこられた。 「キャッ!」 「キャッ!じゃない……。」 何度も何度もキスをした。 こんな朝を迎える

  • [27.日付けを過ぎても] [27.日付けを過ぎても]

    「君はそれを僕がしたと、思ったね。」 耕平に言われ、ハッとした。 「そのチケットは、最初から二枚重ねになっていたよ。どうしてそんな、ややこしいことをするのか、僕にはさっぱりわからない。」 いつになく、耕平はかなり真顔だった。 いつもの屈託なくよく笑う耕平ではない。 「もう、彼氏のことはいいだろう? そんな手の込んだことする奴、訳分からないだろう? 僕ならやめる。やめて、新しい恋をする。」 真摯に見

  • [26.日付けを過ぎても] [26.日付けを過ぎても]

    あづみの記憶も有架里と同じだった。 「でも、チケットの日付けは違う。しかも、ここは海の上。到着した時点で、コンサートは終わってる……。」 「どうしよう……。」 こんなミスをするとは思わなかった。 なんで……。 しかし、よく見ると、チケットの日付け部分に爪でこすったような跡が見られた。 「何、これ……?」 別の意味で言葉が震えてきた。 ……待って、有架里。今はこの人と二人きりなのよ。 自分に言い聞か

  • [25.日付けを過ぎても] [25.日付けを過ぎても]

    「チケットは本物だったよ。良かったね。」 と、笑顔でチケットを渡された。 ホッと肩の力が抜け落ちた。 「あれ? まだ着替えていなかったの? て、僕もだけどね。今夜は部屋で一緒に食事しない? 大丈夫、襲ったりしないから。」 冗談ぽく言われて、つられて有架里も笑った。 「笑ってるのが一番だよ? ジメジメしててもしょーがない。僕の部屋でもいいし、君の部屋でもいいし。」 「……じゃあ、私の部屋で……。」

  • [24.日付けを過ぎても] [24.日付けを過ぎても]

    客室に入ると、有架里は胸が高鳴ってることに気付いた。 チケットが本物かどうか調べるためだけではないことは、わかっていた。 でも、見たくない現実だった。 瑛太を追って、船旅を選んででも、アメリカへ行きたかった。 その船旅で、まさか耕平に心揺れるとは思わなかった。 あの日、あの時、瑛太に自分の心をもっと、押してほしかった。 心を押し倒されたかった願望が、耕平の振る舞いと二重になっていく。 ……私はどう

  • [23.日付けを過ぎても] [23.日付けを過ぎても]

    「ねぇ、そのチケット、見せてくれる?」 不意に耕平に言われて、顔を上げた。 「やっぱり、彼氏絡みのことになると、反応早いね。」 溜息混じりに苦笑された。 有架里は返事に困りながらも、チケットをバッグから取り出し、耕平に見せた。 「本物かどうか調べてあげる。」 「えっ?」 「だって、もし偽物のチケットなら、行くだけ無意味でしょ?」 偽物……。考えてもいないことだった。 「僕の友達に音楽業界で働いてる

  • [22.日付けを過ぎても] [22.日付けを過ぎても]

    「考えさせて……。」 有架里は言ってから、ハッとした。 ……今、なんて言ってしまったのだろう……。考えさせて? 何を? 「何を考えるの?」 耕平は困った口調で言った。 夕凪が耕平の頬をかすめ、栗色の髪がサラサラとしていた。 綺麗だと思った。 耕平の顔立ちは悪くない。むしろ、イケメンだ。 瑛太のことがなければ、夢中になっていたのだろうか。 「……部屋まで行ってもいい?」 耳元で囁かれた。 「……。」

  • [21.日付けを過ぎても] [21.日付けを過ぎても]

    耕平はエスコート慣れしていた。初めての船旅に緊張している有架里を、あちこち連れ出してくれた。 ゴルフの練習、フィットネスセンター、カジノ、ショー……。 有架里がアートクラフトの講座を受けてる間は、耕平はライブラリーで読書をしていたり……。 気付けば、船内の夫婦ペアと変わらない行動をしていた。 ある日の夕暮れだった。 デッキで夕方の風を気持ち良く浴びている時、 「アメリカへ行くのは、彼氏が目的らしい

  • [20.日付けを過ぎても] [20.日付けを過ぎても]

    お一人様参加OKのそのツアーは、たしかに、若い世代の者も多かった。 赤道を2回回り、40都市に寄港するクルーズだった。 次の寄港地はロサンゼルスで、ロスから目的地までの国内便の手配もできていた。 客室に入ると、早速テレビをつけた。 オーシャンビューのデッキ付き客室など、予算的に取れる筈もなく、窓の無いシングルの客室を選んでいた。 テレビをつけると、海の様子が映った。ここから、日の出や日の入りも見え

  • [19.日付けを過ぎても] [19.日付けを過ぎても]

    瑛太に会いに行くことにした有架里は、早速、飛行機のチケットを手配することにした。 が、なぜか行きたい期間内でのエコノミー席は、どこの航空会社も満席だった。 ビジネス席は空いてるものの、二人分のビジネス席の料金を出すことに躊躇ってしまった。 まさか、あづみに出させるわけにはいかない。 二席くらい、簡単に確保できると思っていた。 歯痒い気持ちでパソコンの画面を見つめる。 ……そうだ! 飛行機で行くこと

  • [18.日付けを過ぎても] [18.日付けを過ぎても]

    アメリカへ行きたかった。 家へ帰ると、鞄から手紙を取り出した。 ミルク色の封筒の裏には、理系男子よろしく達筆ではないものの、一字一字丁寧に書かれた文字で名前と住所も書かれている。 住所を地図アプリに入力してみた。 チャールズ川の見える範囲内に、赤いピンポイントマークの立つその立地は、瑛太の通う大学をすぐイメージできた。 日本で言えば、学園都市だったり、文教地区といったところだろうか。治安のほうは、

  • [17.日付けを過ぎても] [17.日付けを過ぎても]

    「うーん、なんて言ったらいいのかなあ……。でも君のことだから、俺の話、十中八九、聞かないから、自分で決めたように進むといいよ。後悔しないから。」 雅記は、「マジ、ホントに。」と言い足して、アイスコーヒーを飲み終えた。 「悪りぃ、俺、このあと会社行かなきゃいけなくて。」 と言い、伝票を持ってさっさと立ち上がった。 「また何か進展したら教えてくれよ?」 と言われ、雅記とはラウンジの入り口で別れた。 有

  • [16.日付けを過ぎても] [16.日付けを過ぎても]

    「きっかけは瑛太君、サークルをやめた時のこと。」 「ああ、会社、起業してだったよな?」 「うん、あの時、瑛太君に「もう俺、先輩じゃねーよ」て笑いながら言われて。」 「うん。」 「じゃあ、「瑛太君と呼んでいい?」と聞いたら「うん」て。それだけ。」 「へ? それだけ? 簡単な理由だなー。」 「うん。」 雅記はアイスコーヒーを飲んで、口を開いた。 「君のこと、好きなんだろうなあ……。」 雅記は遠い目をし

  • [15.日付けを過ぎても] [15.日付けを過ぎても]

    あのホテルで雅記と再会した。 あのホテルは、瑛太と最後に会ったところだ。同じラウンジにいた。 雅記は相変わらずの短髪に、やんちゃな面影のあるちょっといかつい顔、ラガーマンだった面影もしっかり残ってる。 証券マンになっていたのは知っていた。 二人は卒業以来、初の再会だった。 「驚いたよ、そんな内容で電話来るとは思ってもなかったから。」 雅記の声は、瑛太と打って変わって、少し高めだ。有架里の音域まで、

  • [14.日付けを過ぎても] [14.日付けを過ぎても]

    「お姉ちゃんはそのチケット、どうしたの?」 と、あづみに聞かれた。 「どうしたもこうしたも……。」 「アメリカのどこ? どうやって行くの? 飛行機のチケット、まさか私達で……?」 返事に困った。 アメリカへ行く旅費はあるにはある。でも、普通……? 「お姉ちゃん、そのチケット、誰から貰ったの?」 「……大学の先輩……。」 「本当に?」 「うん。」 「先輩がね、飛行機のチケットもなく、コンサートのチケ

  • [13.日付けを過ぎても] [13.日付けを過ぎても]

    「夢を叶えろ。そのための就活だと思え。挫けるな。負けるな。君が夢を叶えた時には、俺も何かプレゼントさせてもらうよ。」 そう言い、瑛太は足早に去って行ってしまった。 本当なら嬉しい筈の再会。聞きたいこともたくさんあった。 なのにうなだれるしかできなかった。 その時、有架里は恋人を作っていたのだ。 その恋人とは1年程で別れた。 過去に思いを馳せていると、時の過ぎるのを忘れてしまう。 有架里はハッとして

  • [12.日付けを過ぎても] [12.日付けを過ぎても]

    目の前にいる瑛太はスーツを着ていた。 2~3人のスーツ姿の男性達を先に帰して、伝票を手にしていた。 「瑛太……。」 目を見開いて呟く有架里に、瑛太は少し忙しそうに手を振ると、すぐに行ってしまった。 「お姉ちゃん?」 「……待ってて。」 ここで瑛太を見失ったら、もう一生会えない! そう思い、有架里は小走りした。 広いラウンジを抜けると、チェックを済ませた瑛太の後ろ姿を見つけた。 「瑛太!」 立ち止ま

  • [11.日付けを過ぎても] [11.日付けを過ぎても]

    就職の決まらない有架里は、あづみとホテルのラウンジへ行った。 あづみは希望する芸術学部へ行き、キャンパスライフを大変そうにしながらも、満喫していた。 有架里は落ち込んだ顔を見せていた。 あづみはアールグレイかキャラメルティーにするか迷っていた。 何も考えたくない有架里は、即決でアイスコーヒーを頼んだ。 選択に迷えるなんて、いいなあ……などと、羨ましくなった。 久しぶりに会った姉妹の会話は、有架里の

  • [10.日付けを過ぎても] [10.日付けを過ぎても]

    あとでわかったこともある。 婚約者は、瑛太の父親の経営する会社と、政治的に結びつきのある、与党幹部の娘だった。 留学は交換留学だけなのか、退学と編入を視野に入れての留学なのか、わからなかった。 もう知りたくない気持ちもあった。 あんなに仲良く遊んでいた仲間に、裏切られた気持ちも、心のどこかにあった。 誰にも詳しい話をせず、素振りにも見せず、ある日いなくなってしまった瑛太に、感情の糸は絡まり、ほどけ

  • [9.日付けを過ぎても] [9.日付けを過ぎても]

    「11時過ぎか……。お前、学校は?」 「大丈夫だよ。」 「そうか……。」 手持ちぶさたを感じてしまい、ピアノの蓋をそっと閉めた。 蓋の閉まる音はまるで合図のようだった。 「そろそろ帰んな……。うつることはないと思うけど、看病疲れで学校休まれちゃかなわんからな。」 「ん……。」 帰りたくなかった。ずっとピアノの前に立ってるわけにもいかず、ゆっくり足を前にした。 「瑛太君、大丈夫……?」 ドアのところ

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